東京大学,科学技術振興機構(JST)

令和5年6月12日

東京大学
科学技術振興機構(JST)

水素を用いたプラスチックのケミカルリサイクルへ新たな道

~カルボニル化合物の反応性の序列を覆す新触媒~

ポイント

東京大学 大学院工学系研究科の野崎 京子 教授、岩﨑 孝紀 准教授、柘植 一輝 大学院生(研究当時)、内藤 直樹 学部学生(研究当時、現:技術補佐員)の研究グループは、新たに開発した独自の触媒によりカルボニル化合物の中で最も反応性が低いウレアを、水素分子を用いて選択的に分解できることを明らかにしました。

エステルやアミドなどに代表されるカルボニル化合物は、そのカルボニル基に結合する2つの置換基によって反応性が大きく異なります。カルボニル基に2つの窒素が結合したウレアは、カルボニル化合物の中で反応性が最も低いとされています。今回開発した触媒は、水素分子をウレアに付加させ、炭素と窒素との2つの結合のうち一方のみを切断し、ホルムアミドとアミンを与えます。ホルムアミドはカルボニル基に窒素と水素が結合しているため、ウレアよりも高い反応性を持ちますが、今回開発した触媒ではさらなる水素分子の付加が起こりません。また、ウレアよりも反応性の高いエステルやアミド、ウレタンなどのカルボニル化合物が反応することなく、ウレアのみが反応しました。この結果は従来の有機化学の常識を覆すものです。

ウレア結合を含む樹脂材料(ポリウレア樹脂)は、耐久性の高い材料として知られており、そのリサイクルは困難とされています。今回開発した水素化触媒をポリウレア樹脂(モデル系)の分解へと応用したところ、水素分子の付加によりポリウレア樹脂のウレア結合を切断し、リサイクルが容易な化合物へと分解できることを明らかにしました。既存の脱水素触媒を組み合わせることで、ポリウレア樹脂を水素分子の出入りのみでケミカルリサイクルが可能になると期待できます。

なお、本研究成果は日本時間2023年6月12日にシュプリンガー・ネイチャーが発行するNature誌の姉妹誌「Nature Communications」の速報版としてジャーナルHPに公開されます。

本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業(ERATO)「野崎樹脂分解触媒プロジェクト(課題番号:JPMJER2103)」(研究総括:野崎 京子)、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO) 官民による若手研究者発掘支援事業(マッチングサポートフェーズ)「水素を用いたポリウレア樹脂のケミカルリサイクル(課題番号:JPNP20004)」(代表:岩﨑 孝紀)、文部科学省 科学研究費助成事業 学術変革領域研究A:デジタル化による高度精密有機合成の新展開(JP21A204)「触媒制御によるカルボニル基の水素化の化学選択性逆転と反応機構の解明(課題番号:22H05340)」(代表:岩﨑 孝紀)、ENEOS東燃ゼネラル研究奨励・奨学会(代表:岩﨑 孝紀)、住友財団(代表:岩﨑 孝紀)の支援により実施されました。

<プレスリリース資料>

<論文タイトル>

“Chemoselectivity Change in Catalytic Hydrogenolysis enabling Urea-reduction to Formamide/Amine over More Reactive Carbonyl Compounds”
DOI:10.1038/s41467-023-38997-2

<お問い合わせ先>

(英文)“Chemoselectivity change in catalytic hydrogenolysis enabling urea-reduction to formamide/amine over more reactive carbonyl compounds”

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