ポイント
- 大腸がん組織の中では抗がん剤感受性を示す細胞と抵抗性を示す細胞が混在していますが、オートファジーの活性化が増殖の遅い抗がん剤抵抗性細胞の生成につながることを発見しました。
- 大腸がんのオートファジー活性化には転写因子PROX1の誘導が関与しますが、PROX1は細胞の増殖を促進するmTORC1キナーゼの働きを抑えます。一方、mTORC1の抑制はPROX1活性の上昇をもたらします。このように抗がん剤抵抗性細胞はPROX1、mTORC1を介したフィードバック制御により維持されることを明らかにしました。
- 既存の抗がん剤とオートファジー阻害剤の併用により、大腸がん細胞の増殖を相乗的に阻害することを見いだしました。
- 今後、この研究成果に基づき、オートファジー経路の阻害による新しい大腸がん治療法の開発が期待されます。
帝京大学 先端総合研究機構の岡本 康司 教授らは、国立がん研究センター研究所の浜本 隆二 分野長・金子 修三 ユニット長らとの共同研究で、大腸がんの抗がん剤抵抗性の維持に働く新しい分子メカニズムを発見しました。
がん治療において、抗がん剤治療後も生き残る抵抗性細胞はがんの再発を引き起こすため、その分子メカニズムを解明し、抵抗性細胞に対する治療法を発見することが強く望まれていました。
本研究グループは、大腸がん患者由来オルガノイドやマウス移植腫瘍を用いて、オートファジーの活性化がPROX1陽性の抗がん剤抵抗性細胞を誘導することを発見しました。また、PROX1はmTORC1を介したフィードバック制御により、抗がん剤抵抗性細胞の特性維持に働くという新しい分子機構を明らかにしました。さらに、既存の抗がん剤とオートファジー阻害剤を併用することにより、大腸がんを相乗的に阻害することを見いだしました。
本研究成果により、今後はオートファジー経路を標的とした新規阻害剤の開発、および大腸がんに対する新しい治療法の発展が期待されます。
本研究成果は、2023年5月23日(米国東部時間)に米国科学誌「Cell Reports」のオンライン版に掲載されました。
本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。
戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)
研究領域 | 「多細胞間での時空間的相互作用の理解を目指した定量的解析基盤の創出」 (研究総括:松田 道行) |
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研究課題 | 「マルチオミクス1細胞解析による難治がん組織空間の数理的再構成」 (グラント番号JPMJCR2122) |
研究代表者 | 帝京大学 先端総合研究機構 教授 岡本 康司 |
研究期間 | 2021(令和3)年10月~2027(令和9)年3月 |
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(527KB)
<論文タイトル>
- “PROX1 induction by autolysosomal activity stabilizes the persister-like state of colon cancer via feedback repression of the NOX1-mTORC1 pathway”
- DOI:10.1016/j.celrep.2023.112519
<お問い合わせ先>
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岡本 康司(オカモト コウジ)
帝京大学 先端総合研究機構 教授
〒173-0003東京都板橋区加賀2-21-1
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E-mail:okamoto.kouji.dmteikyo-u.ac.jp
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