東京大学,科学技術振興機構(JST)

※プレスリリース資料に記載した論文タイトルに誤りがあったため、発表原稿を差し替えました(令和5年5月18日)。

令和5年5月17日

東京大学
科学技術振興機構(JST)

間違えたら何度でもやり直すたんぱく質合成の
新たな品質管理機構の発見

ポイント

東京大学 大学院工学系研究科の長尾 翌手可 講師と鈴木 勉 教授の研究グループは、大腸菌において、たんぱく質合成の初期段階でリボソームから脱落した伸長中のペプチジルtRNA(pep-tRNA)のペプチド鎖の配列を網羅的に解析することに成功しました。この解析により、たんぱく質合成の初期段階では従来考えられていたよりもはるかに高い頻度で誤翻訳が起きていること、そして、その誤翻訳によって生じたpep-tRNAはたんぱく質合成途中に積極的にリボソームから脱落し、翻訳の次のステップに持ち越されないことを明らかにしました。その後、解離したリボソームは再び翻訳をやり直すことで、正しいたんぱく質を作ることができます。この仕組みはたんぱく質合成の品質を管理するための、これまでに知られていなかった全く新しい機構です。

バクテリアにおいて、たんぱく質合成の初期段階では、翻訳伸長中のpep-tRNAが新生ペプチド鎖を結合したままリボソームから脱落するといったペプチジルtRNAドロップオフ(pep-tRNA drop-off)という現象が頻繁に起きています。この現象は1970年代には知られていましたが、技術的な障壁もあって、どのようなペプチド配列を持つtRNAが、どのようなmRNAから脱落しているのか、またその生物学的な意味については理解が進んでいませんでした。

本研究グループは、RNA単離技術と質量分析法を駆使し、大腸菌の全tRNA種について、脱落したpep-tRNAのペプチド鎖の配列同定を試みました。その結果、mRNAが指定する配列通りのペプチド鎖に加え、1アミノ酸だけ別のアミノ酸に置換されたペプチド鎖が大量に観察されました。その置換部位はペプチド鎖のC末端、つまりtRNAと結合しているアミノ酸残基に起きていることが判明しました。さらなる詳細な解析の結果、この誤った新生ペプチド鎖はリボソーム上で、tRNAがコドンを誤って解読し、ペプチド転移反応によって生じること、またその後、この誤ったpep-tRNAはリボソームから脱落し、翻訳の次のステップには進まないことが分かりました。

従来、翻訳精度を維持する機構としては、主に、リボソーム上でペプチド鎖が重合する前の段階、すなわちペプチド転移反応前でのみ起きていると考えられてきましたが、今回の発見は、ペプチド転移反応後にもたんぱく質合成の品質を管理する主要な機構があることを意味し、従来の概念を完全に覆す発見と言えます。

本研究成果は、2023年5月17日(英国夏時間)に「Nature Communications」に掲載されます。

本研究は、日本学術振興会 JSPSの基盤研究(S)「RNAエピジェネティックスと高次生命現象」(代表:鈴木 勉、26220205)、基盤研究(S)「RNA修飾の変動と生命現象」(代表:鈴木 勉、18H05272)、新学術領域研究 研究領域提案型「ncRNAのケミカルタクソノミ」(代表:鈴木 勉、26113003)、新学術領域研究(研究領域提案型)「mRNAとタンパク質の品質管理機構における新生鎖の新規機能の解明」(代表:稲田 利文、分担:長尾 翌手可、14429723)、基盤研究(C)「tRNA使用頻度による新規翻訳調節機構の探索とメカニズムの解明」(代表:長尾 翌手可、20266626)、および科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(ERATO)「鈴木RNA修飾生命機能プロジェクト」(研究総括:鈴木 勉、JPMJER2002)などの支援を受けて実施されました。

<プレスリリース資料>

<論文タイトル>

“Quality control of protein synthesis in the early elongation stage”
DOI:10.1038/s41467-023-38077-5

<お問い合わせ先>

(英文)“Quality control of protein synthesis in the early elongation stage”

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