ポイント
- 遺伝子治療の臨床応用においては、遺伝子治療に用いられるアデノ随伴ウイルスベクター(AAV)が治療対象以外の部位に作用し、意図しない合併症をもたらすリスクがあります。本研究では、AAVによる遺伝子導入の効果を局在化させ、遺伝子治療の潜在的なリスクを減らす方法を開発しました。
- バイオマテリアルとして広く用いられているポリエチレングリコール(PEG)の分解特性を最適化することによって、マウスの皮膚潰瘍表面への遺伝子導入効率を保ちながら、深部組織、遠隔臓器における意図しない作用を減らすことに成功しました。
- 局所的な病態を対象とした遺伝子治療に伴う潜在的な合併症発生のリスクを減らすことによって、遺伝子導入を用いた生体内リプログラミング、生体内ゲノム編集など、強力な治療手段の研究開発に応用されることが期待されます。
東京大学 大学院医学系研究科の加藤 基 大学院生(研究当時)、岡崎 睦 教授、東京大学 医学部の栗田 昌和 講師と東京大学 大学院工学系研究科の石川 昇平 助教、酒井 崇匡 教授らによる研究グループは、皮膚潰瘍表面をターゲットとしたアデノ随伴ウイルスベクター(AAV)による遺伝子導入の効果を局在化させる方法を開発しました。
本研究グループが開発した医療用ゲル(テトラPEGシステム)、なかでも動的な共有結合を持つように設計されたPEGスライムをキャリアとして緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現するAAVをマウスの皮膚潰瘍面に投与すると、キャリアを用いずに投与した場合と比較して、潰瘍表面付近の細胞におけるGFP発現頻度を低下させることなく、より深い部位や代表的な遠隔臓器である肝臓におけるGFP発現を減らすことができました。
高い自由度で溶解特性を調整することが可能なPEG高分子をドラッグデリバリーに用いることによって、局所的な病態を対象とした遺伝子治療に伴う潜在的な合併症発生のリスクを減らし得ることが示唆されました。本研究グループが開発を進める生体内リプログラミングによる皮膚潰瘍治療、組織胎児化による複合的組織再生法など、強力な治療法の研究開発に応用されることが期待されます。
本研究成果は、5月16日(英国夏時間)に「Communications Biology」で公開されます。
本研究は、日本医療研究開発機構(AMED) ムーンショット型研究開発事業(21zf0127002)、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 CREST(JPMJCR1992)、科学研究費補助金(20H03847、20K20609、21H04688、20H05733、21J10828、20J01344、20K15338)の支援を受けたものです。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(309KB)
<論文タイトル>
- “In situ-formable, dynamic crosslinked poly (ethylene glycol) carrier for localized adeno associated virus infection and reduced off-target effects”
- DOI:10.1038/s42003-023-04851-w
<お問い合わせ先>
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<研究に関すること>
栗田 昌和(クリタ マサカズ)
東京大学 医学部附属病院 形成外科・美容外科 講師
酒井 崇匡(サカイ タカマサ)
東京大学 大学院工学系研究科 化学生命工学専攻 教授
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<JST事業に関すること>
安藤 裕輔(アンドウ ユウスケ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
Tel:03-3512-3531
E-mail:crestjst.go.jp
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<AMED事業に関すること>
ムーンショット事業に関すること
日本医療研究開発機構(AMED) 研究開発統括推進室
基金事業課(ムーンショット事務局)
E-mail:moonshotamed.go.jp
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<報道担当>
東京大学 医学部附属病院 パブリック・リレーションセンター
担当:小岩井、渡部
Tel:03-5800-9188
E-mail:pradm.h.u-tokyo.ac.jp
東京大学 大学院工学系研究科 広報室
Tel:03-5841-0235
E-mail:kouhoupr.t.u-tokyo.ac.jp
科学技術振興機構 広報課
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
Tel:03-5214-8404
E-mail:jstkohojst.go.jp