ポイント
- 分子線エピタキシー(Molecular Beam Epitaxy;MBE)法と原子置換(トポタクティック反応)法との独自な組み合わせにより、原子3個分の厚さしかない原子層2硫化バナジウム(VS2)薄膜を作製しました。
- 原子層VS2では1次元的に電荷が配列していることを発見しました。
- 従来とは異なる「高次ネスティングベクトル」によって電荷配列が生じることを提案する成果です。
- いまだ謎が多い2次元物質における電荷密度波(Charge-density Wave;CDW)メカニズムの解明や原子層材料を用いたスイッチングナノデバイスの開発につながると期待されます。
グラフェンや遷移金属ダイカルコゲナイドに代表される低次元の層状物質では、低温で「電荷密度波(CDW)」と呼ばれる電荷配列現象の起こることが知られていますが、どういうメカニズムで電荷が配列するのかは、多くの物質においていまだによく分かっていません。
東北大学 大学院理学研究科の川上 竜平 大学院生、菅原 克明 准教授、材料科学高等研究所(WPI-AIMR)の佐藤 宇史 教授らの研究グループは、WPI-AIMRの岡 博文 助教、大学院理学研究科の福村 知昭 教授らと共同で、分子線エピタキシー(MBE)法と原子置換法を用いて2硫化バナジウム(VS2)の2次元シート(原子層薄膜)を作製し、その電子構造をマイクロARPES(Angle-resolved Photoemission Spectroscopy;ARPES)と走査トンネル顕微鏡(Scanning Tunneling Microscopy;STM)を用いて調べました。
その結果、原子層VS2は特殊なCDWが生じることで絶縁体となることを明らかにしました。さらにCDWの形成に、従来に比べてちょうど2倍の長さを持つ「高次ネスティングベクトル」が関与していることを突き止めました。今回の成果はいまだ謎が多い2次元物質におけるCDWメカニズムの解明へとつながるものです。
本研究成果は、科学雑誌「npj 2D materials and Applications」に2023年5月2日(現地時間)にオンライン掲載されました。
本成果は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 さきがけ「原子・分子の自在配列と特性機能」(研究総括:西原 寛)における研究課題「MBE・原子置換・パターニングを融合した新原子層材料の創製」(JPMJPR20A8)(研究代表者:菅原 克明)、JST 戦略的創造研究推進事業 CREST「トポロジカル材料科学に基づく革新的機能を有する材料・デバイスの創出」研究領域(研究総括:上田 正仁)における研究課題「ナノスピンARPESによるハイブリッドトポロジカル材料創製」(JPMJCR18T1)(研究代表者:佐藤 宇史)、日本学術振興会 科学研究費助成金などの支援を受けて行われました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(684KB)
<論文タイトル>
- “Charge-density wave associated with higher-order Fermi-surface nesting in monolayer VS2”
- DOI:10.1038/s41699-023-00395-z
<お問い合わせ先>
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<研究に関すること>
菅原 克明(スガワラ カツアキ)
東北大学 大学院理学研究科 物理学専攻 准教授
Tel:022-217-6169
E-mail:k.sugawaraarpes.phys.tohoku.ac.jp
佐藤 宇史(サトウ タカフミ)
東北大学 材料科学高等研究所 教授
Tel:022-217-6169
E-mail:t-satoarpes.phys.tohoku.ac.jp
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<JST事業に関すること>
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科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ
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