ポイント
- 日本人148名(新型コロナウイルス感染症:COVID-19患者73名、健常者75名)由来の約90万の末梢血単核細胞(PBMC)を用いたシングルセル解析とともに、宿主ゲノム情報との統合解析を実施した。
- 単球の中の希少細胞種であるCD14+CD16++単球がCOVID-19重症化に関与していることを見いだした。
- IFNAR2などゲノムワイド関連解析(GWAS)で同定されたCOVID-19重症化関連遺伝子は、主に単球および樹状細胞で特異的に機能していることが判明した。
- COVID-19を含めたさまざまな感染症の新しい治療法や診断法の開発につながることが期待される。
大阪大学 大学院医学系研究科の枝廣 龍哉 さん(博士課程)(遺伝統計学/呼吸器・免疫内科学)、白井 雄也 さん(博士課程)(遺伝統計学/呼吸器・免疫内科学)、熊ノ郷 淳 教授(呼吸器・免疫内科学)、岡田 随象 教授(遺伝統計学/東京大学 医学系研究科 遺伝情報学/理化学研究所 生命医科学研究センター システム遺伝学チーム チームリーダー)らの研究グループは、PBMCのシングルセル情報と宿主ゲノム情報との統合解析を実施することにより、COVID-19重症化における自然免疫細胞の役割を明らかにしました。
COVID-19重症化には血液免疫細胞の応答異常が関与していることが報告されていますが、SARS-CoV-2感染に対する宿主の免疫応答はいまだ不明な点が多くあります。また、大規模GWASによりCOVID-19重症化における宿主の遺伝的なリスクの寄与が明らかになっていますが、その病態機序は十分に解明されていませんでした。
今回、研究グループは、大阪大学が収集した日本人集団のCOVID-19患者73名と健常者75名のPBMCのシングルセル解析を実施するとともに、宿主ゲノム情報との統合解析を行いました。その結果、単球の中の希少細胞種であるCD14+CD16++単球がCOVID-19患者で顕著に減少しており、その一因がCD14+CD16++単球への細胞分化不全であることが分かりました。また、遺伝子発現変動解析と細胞間相互作用解析により、CD14+CD16++単球の機能不全が重症化に関与していることも分かりました。さらに、GWASで同定されたCOVID-19重症化関連遺伝子は、単球および樹状細胞で特異的に発現していること、COVID-19に関連する遺伝子多型がSARS-CoV-2感染状況下かつ細胞種特異的なeQTL(expression quantitative trait loci)効果を持つことが分かりました。
本研究成果によって、COVID-19重症化に関与する細胞種を明らかにするとともに、重症化の宿主遺伝的リスクは自然免疫細胞に集約されていることを見いだしました。本成果は、今後の感染症研究に資するものと期待されます。
本研究成果は、2023年4月25日(火)(日本時間)に英国科学誌「Nature Genetics」(オンライン)に掲載されます。
本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 CREST「先端ゲノム解析と人工知能によるコロナ制圧研究(JPMJCR20H2)」・ムーンショット型研究開発事業「複雑臓器制御系の数理的包括理解と超早期精密医療への挑戦」、日本医療研究開発機構(AMED) ゲノム医療実現推進プラットフォーム事業・先端ゲノム研究開発(GRIFIN)「遺伝統計学に基づく日本人集団のゲノム個別化医療の実装」、革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)「神経・免疫関連を介したヒト自然免疫記憶制御に関する研究開発」、ワクチン開発のための世界トップレベル研究開発拠点の形成事業「ワクチン開発のための世界トップレベル研究開発拠点群 大阪府シナジーキャンパス(大阪大学 ワクチン開発拠点)」、JSPS 科研費「統合シークエンス解析による免疫アレルギー疾患ダイナミクスの解明」、「新型コロナウイルス感染症の重症化阻止を目指した医薬品・次世代型ワクチン開発に必要な遺伝学・免疫学・代謝学的基盤研究の推進」「新型コロナウイルス感染症疾患感受性遺伝子DOCK2をターゲットとした新規治療戦略創出」、大阪大学 免疫学フロンティア研究センター(IFReC)、大阪大学 感染症総合教育研究拠点(CiDER)、日本財団・大阪大学 感染症対策プロジェクトにおけるチーム阪大研究プロジェクト、次世代主任研究者支援プログラム、大阪大学 先導的学際研究機構、大阪大学 大学院医学系研究科 バイオインフォマティクスイニシアティブ、武田科学振興財団、三菱財団の協力を得て行われました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(806KB)
<論文タイトル>
- “Single-cell analyses and host genetics highlight the role of innate immune cells in COVID-19 severity”
- DOI:10.1038/s41588-023-01375-1
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