理化学研究所(理研) 創発物性科学研究センター 創発生体関連ソフトマター研究チームの王 翔 研究員、石田 康博 チームリーダーらの共同研究グループは、外部から加えられた力の左右方向を見分け、一方向にのみ変形することのできるゲル材料を開発し、この材料が物質やエネルギー、生物を一方向に移動させる能力を持つことを実証しました。
本研究成果は、今回の材料が乱雑状態から秩序状態を作り出す、すなわち「エントロピー増大」に逆らう能力を持つことを示しており、物質の分離、エネルギーの回収、生物行動の制御など、幅広い分野で応用されると期待できます。
今回、共同研究グループは、斜めに配向させた酸化グラフェンのナノシートをゲル中に埋め込んだ材料を作製しました。このゲルに横方向のせん断を加えた際、左向きのせん断ではナノシートがたわみ、ゲルは容易に変形する一方、右向きのせん断ではナノシートはたわまず、ゲルは強固に抵抗します。この左右のせん断における硬さには67倍もの差があり、ゲルはあたかも“中心から左右どちらかにしか振れない振り子”のように振る舞います。その結果このゲルは、乱雑な振動を一方向の振動に変換する、物体を一方向に輸送する、線虫の集団を一方向に走行させるなど、方向を制御する機能をさまざまな場面で発揮しました。これらは全て、エントロピー増大に逆らう機能であり、自ら秩序性を高める能力を持つ生物と通常はその能力を持たない人工材料の間にある大きな差を埋めるとともに、物質分離やエネルギー変換のための新技術につながると考えられます。
本研究は、科学雑誌「Science」オンライン版(4月13日付:日本時間4月14日)に掲載されます。
本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 CREST「殆どが水よりなる動的フォトニック結晶の開発と応用(研究代表者:石田 康博、JPMJCR17N1)」「エントロピー増大に逆らう革新材料「力学極性ゲル」による物質・エネルギー・生物の整流化(研究代表者:石田 康博、JPMJCR22B1)」による助成を受けて行われました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(1.16MB)
<論文タイトル>
- “Mechanical nonreciprocity in a uniform composite material”
- DOI:10.1126/science.adf1206
<お問い合わせ先>
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<研究に関すること>
石田 康博(イシダ ヤスヒロ)
理化学研究所 創発物性科学センター 創発生体関連ソフトマター研究チーム チームリーダー
王 翔(ワン・シャン)
理化学研究所 創発物性科学センター 創発生体関連ソフトマター研究チーム チームリーダー
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<JST事業に関すること>
安藤 裕輔(アンドウ ユウスケ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ
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<報道担当>
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