東京大学,科学技術振興機構(JST)

令和5年3月22日

東京大学
科学技術振興機構(JST)

異常ホール効果の超高速変化を10兆分の1秒の時間で観測することに成功

~ミクロなメカニズムを解明する新手法を開拓~

ポイント

東京大学 物性研究所の松田 拓也 特別研究員(日本学術振興会 特別研究員(PD))、松永 隆佑 准教授らの研究グループおよび同大学 大学院理学系研究科 物理学専攻の中辻 知 教授、肥後 友也 特任准教授らのグループは、東北大学 理学研究科 物理学専攻の是常 隆 准教授および東京大学 低温科学研究センターの島野 亮 教授らの研究グループと協力して、磁性体に光を当てたときに異常ホール効果が超高速に変化する様子を10兆分の1秒の時間スケールで観測することに初めて成功し、その変化からミクロなメカニズムを解明できることを示しました。

磁性体に電場をかけると、電場と平行方向だけでなく垂直方向にも電流が生じることが知られています。これは異常ホール効果と呼ばれ、通常の電気伝導と違ってエネルギー損失のない無散逸電流が生じるなどの興味深い特徴があります。近年では物質が持つトポロジカルな性質とも深く関連することが明らかになり、異常ホール効果は一層大きな注目を集めています。一方で、不純物によって電子が散乱されることに起因する異常ホール効果も存在するため、異常ホール効果が観測されるたびにそのミクロなメカニズムがどちらに由来するものなのかが必ず議論の対象になっています。

本研究では、トポロジカル磁性体に対して非常に短い光パルスを照射し、それによって生じる異常ホール効果の変化を10兆分の1秒の時間スケールで調べる実験を初めて実現しました。これは、物質に光が当たることでまず電子のみがエネルギーを受け取って高温状態になり、それからエネルギーが格子やスピンに行き渡る前のごくわずかな時間に異常ホール効果を測定したことに相当します。その結果、通常の電気伝導度はほぼ変化しないにもかかわらず、異常ホール効果は40パーセントも急激に減少する様子を観測しました。この実験結果は、トポロジカルな性質が起源だとするとよく説明できる一方、不純物散乱由来だとすると全く整合しません。つまり本研究は、光パルスを当てた直後の異常ホール効果を調べることで、ミクロなメカニズムを解明する新たな道筋を示しました。また、異常ホール効果は磁性体に埋め込まれた磁気情報を電流によって読み出す手段としても重要です。10兆分の1秒程度の時間スケールで異常ホール効果の変化のメカニズムを解明したことは、高速磁気情報処理デバイスの開発においても重要な設計指針になると考えられます。

本研究成果は、国際科学雑誌「Physical Review Letters」の2023年3月21日付け(現地時間)オンライン版に公開されます。

本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 さきがけ「トポロジカル材料科学と革新的機能創出」研究領域(研究総括:村上 修一)における研究課題「トポロジカル半金属を用いたテラヘルツ高速エレクトロニクス・スピントロニクス素子開拓」課題番号 JPMJPR20LA(研究者:松永 隆佑)、未来社会創造事業「スピントロニクス光電インターフェースの基盤技術の創成」課題番号JPMJMI20A1(代表者:中辻 知)、並びに文部科学省 科学研究費補助金 基盤研究(B)「モノサイクル高強度テラヘルツ磁場発生技術開拓とワイル磁性制御」課題番号19H01817(研究代表者:松永 隆佑)、特別研究員奨励費「空間反転対称性の破れたワイル半金属における非線形テラヘルツ応答の解明」課題番号21K13858(研究代表者:松田 拓也)、若手研究「テラヘルツ分光によるワイル反強磁性体の電磁応答の解明と高速制御」課題番号20J01422(研究代表者:松田 拓也)、および基盤研究(A)「ワイル磁性体における電気磁気応答の発現機構の解明」課題番号JP19H00650(研究代表者:中辻 知)の一環として行われました。

<プレスリリース資料>

<論文タイトル>

“Ultrafast Dynamics of Intrinsic Anomalous Hall Effect in the Topological Antiferromagnet Mn3Sn”
DOI:10.1103/PhysRevLett.130.126302

<お問い合わせ先>

(英文)“Ultrafast Dynamics of Intrinsic Anomalous Hall Effect in the Topological Antiferromagnet Mn3Sn”

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