ポイント
- 大きさが1ナノメートル(10億分の1メートル)程度のフラーレン1分子に電子を通させ、同時に光照射することで、光照射による固体からの電子の取り出し精度を、従来の10ナノメートル程度から1ナノメートル以下のスケールで達成した。
- フラーレン1分子が持つ量子的な効果を利用することで実現したものであり、約70年間未解明であった、電子が1分子を通過するメカニズムも理論的に解明した。
- これは光により動作する電子の線路の切替えスイッチ(分岐器)をフラーレン1分子で作製したことになる。本分岐機能は、1分子に複数の超高速スイッチを集積できる画期的な技術につながることが期待される。
東京大学 物性研究所の柳澤 啓史 特任研究員(研究当時:ドイツ Ludwig-Maximillians大学 DFGプロジェクトリーダー)らの研究チームは、大きさが1ナノメートル程度のサッカーボール状の炭素から成る分子(フラーレン)を固体の上に配置し、そこに電子を通過させる際に光を照射することで、フラーレンから放出される電子の位置を1ナノメートル以下のスケールで制御することに成功しました。この成果は、光で動作する電子の分岐器をフラーレン1分子で作製できることを示しています。さらに約70年間未解明であった、電子が1分子を通過するメカニズムについて、近畿大学 理工学部の鬼頭 宏任 准教授との共同研究により解明しました。この結果、分岐器の機能は、1分子の量子的な効果が基となり発現していることを理論的に解明しました。
光を固体に照射することで、固体から電子が飛び出す現象を利用した電子の取り出し技術は、現在のコンピューターに用いられるスイッチの速度を1000倍から100万倍に上げるスイッチとして期待されています。電子が飛び出す位置は10ナノメートル程度の精度で制御することが可能で、この技術により超高速スイッチを固体内に集積することができます。一方で、より小さい領域での放出位置操作は超高速スイッチのさらなる集積化のために重要ですが、その達成はこれまで技術的に困難でした。
本研究成果は、超高速スイッチのサイズを1分子にしただけでなく、今後、分岐機能により1分子に複数スイッチを集積できる画期的な技術となることが期待されます。
本研究成果は、2023年3月6日(現地時間)に米国科学誌「Physical Review Letters」のオンライン版に掲載予定、注目論文であるEditor's Suggestionに選ばれました。
本研究は、「JST さきがけ「量子技術を適用した生命科学基盤の創出」領域、研究課題名:原子分解能・低速電子ホログラフィーの開発(課題番号:JPMJPR19GA)」、「DFGプロジェクト資金(課題番号:389759512)」、「光科学技術研究振興財団助成金」、「住友財団助成金」、「村田学術振興財団助成金」、「PETACom」、「精密測定財団助成金」の支援により実施されました。
<プレスリリース資料>
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<論文タイトル>
- “Light-induced subnanometric modulation of a single-molecule electron source”
- DOI:10.1103/PhysRevLett.130.106204
<お問い合わせ先>
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東京大学 物性研究所 特任研究員
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