ポイント
- グラフェンを始めとする原子の厚みしか持たない薄いシートが次世代半導体として大きな注目を集めているが、大面積の絶縁性2次元材料が必要とされていた。
- 本研究では六方晶窒化ホウ素と呼ばれる絶縁性2次元材料を大面積に合成し、グラフェンのデバイス特性を大きく向上させることに成功した。
- グラフェンなどの原子シートに基づく次世代の半導体研究とデバイス開発をさらに加速して、将来の半導体産業に大きく貢献するものと期待できる。
現代社会を大きく支えているシリコン半導体デバイスは、微細化によって高速化や省電力化が進められてきましたが、その微細化も限界に近づきつつあります。この問題を解決する材料として期待されているのが、グラフェンを始めとする原子の厚みしか持たない究極に薄い2次元の原子シート(2次元材料)です。今回研究した六方晶窒化ホウ素は、絶縁性の2次元材料であり、グラフェンなどの他の2次元材料のデバイス特性を著しく向上させるとともに、さまざまな興味深い物性を引き出すのに不可欠な材料です。しかし、六方晶窒化ホウ素は大面積の合成が難しく、現在でも研究では単結晶から得られる小さな剥離(はくり)片が使われることがほとんどです。そのため、六方晶窒化ホウ素を大面積のデバイスに応用する報告はこれまで全くありませんでした。
九州大学 グローバルイノベーションセンターの吾郷 浩樹 主幹教授、パブロ・ソリス=フェルナンデス 特任准教授、研究スタッフの深町 悟 氏、大阪大学 産業科学研究所の末永 和知 教授、産業技術総合研究所のユンチャン・リン 主任研究員らの研究グループは、化学気相成長法と呼ばれる方法で均一な多層の六方晶窒化ホウ素を合成し、さらにそれを用いて大規模なグラフェンデバイスの特性向上につなげることに成功しました。特に、六方晶窒化ホウ素の合成法に加えて、グラフェンとの積層法やクリーニング法を詳細に検討することで、大面積に並んだグラフェンのデバイス特性を倍以上に高められることを実証しました。
本研究は、これまで難しかった大面積での2次元材料のデバイス化を可能にするものであり、次世代半導体の実現を通じて今後の半導体産業に大きく貢献するものと期待されます。
本研究の成果は、2023年2月7日(火)(日本時間)発行の英国科学誌「Nature Electronics」オンライン版で公開されます。
本研究は、文部科学省 科学研究費補助金 学術変革領域研究(A)「2.5次元物質科学:社会変革に向けた物質科学のパラダイムシフト」(21H05232、21H05233、21H05235、22H05478)(領域代表者:吾郷 浩樹)、日本学術振興会(JSPS) 科学研究費補助金(JP18H03864、JP19K22113)(研究代表者:吾郷 浩樹)、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)「ナノスケール・サーマルマネージメント基盤技術の創出」(研究統括:丸山 茂夫)における研究課題「二次元材料とナノ計測の融合による相変化伝熱の革新」(JPMJCR18I1)(研究代表者:高橋 厚史)、「原子・分子の自在配列・配向技術と分子システム機能」(研究統括:君塚 信夫)における研究課題「ナノ空隙を利用した原子・分子の配列制御と物性測定法開発」(JPMJCR20B1)(研究代表者:末永 和知)の助成を受けたものです。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(1.48MB)
<論文タイトル>
- “Large-area synthesis and transfer of multilayer hexagonal boron nitride for enhanced graphene device arrays”
- DOI:10.1038/s41928-022-00911-x
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