ポイント
- 非運動性細菌のコロニー成長過程において、「トポロジカル欠陥」と呼ばれる、細胞の向きがそろわない点があると、その点でコロニーの3次元成長が促進されることを発見した。
- トポロジカル欠陥は、巻き数という指標が+1/2のものと−1/2のものに分類される。運動性細胞に関する従来の知見と異なり、非運動性細菌では、±1/2の双方が細胞を引き寄せることが分かった。また、細胞の3次元的な傾きが生む極性秩序に基づき、本現象を説明した。
- 細菌の3次元的な塊であるバイオフィルムは、日常生活や、医療、産業のさまざまな場面で発生する。本成果は、バイオフィルム形成過程の理解や制御に向けた一助となる可能性がある。
細菌は、しばしば固体表面に付着し、バイオフィルムと呼ばれる3次元的な塊を形成します。排水溝の“ぬめり”や歯垢などが身近な例ですが、医療器具では細菌感染、産業では腐食などの原因となるため、バイオフィルム形成過程の理解と制御は重要な課題です。一般に、細菌が固体表面上で増殖する際、コロニーと呼ばれる細菌の塊は、初めは表面上を2次元的に成長し、ある程度細菌が密集すると3次元的な成長に切り替わります。この過程は、従来は力学的な観点から考察されてきました。
東京大学 大学院理学系研究科の嶋屋 拓朗 大学院生(研究当時)と竹内 一将 准教授は、非運動性の大腸菌を用いて、表面を一様に覆うコロニーが3次元成長する際の初期過程を観察し、細菌細胞の向きの秩序が3次元成長に影響を及ぼすことを見いだしました。大腸菌などの多くの細菌は棒状の形をしており、密集すると棒の向きがそろいますが、ところどころ向きをそろえられない点が生じてしまい、その点は「トポロジカル欠陥」と呼ばれています。本研究により、トポロジカル欠陥が生じた箇所ではコロニーがわずかに隆起して高くなることが明らかとなり、それは欠陥が周囲の細胞を引き寄せるからだと分かりました。細胞を引き寄せる機構についても、細胞が基板に対して傾くことで生じる極性秩序に基づき、説明に成功しています。このように、細菌のコロニー成長を支える物理法則の理解を深めることで、バイオフィルム形成過程の理解や制御に近づけると期待されます。
本研究成果は、2022年12月21日(協定世界時間)に、「PNAS Nexus」に掲載されます。
本研究は、日本学術振興会による新学術領域研究(研究領域提案型)「情報物理学でひもとく生命の秩序と設計原理(領域代表:岡田 康志)」における研究課題「高密度細菌集団の秩序創発・状態制御を司る熱統計力学原理の探求」(課題番号JP19H05800)、および科学技術振興機構(JST) さきがけ「トポロジカル材料科学と革新的機能創出(研究総括:村上 修一)」研究領域における研究課題「液晶トポロジカル乱流の構造決定と負粘性材料科学の開拓(課題番号JPMJPR18L6)」のほか、日本学術振興会による科研費(課題番号JP20H00128、JP20J10682)の支援により実施されました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(662KB)
<論文タイトル>
- “Tilt-induced polar order and topological defects in growing bacterial populations”
- DOI:10.1093/pnasnexus/pgac269
<お問い合わせ先>
-
<研究に関すること>
竹内 一将(タケウチ カズマサ)
東京大学 大学院理学系研究科 物理学専攻 准教授
Tel:03-5841-4204
E-mail:takeuchiphys.s.u-tokyo.ac.jp -
<JST事業に関すること>
嶋林 ゆう子(シマバヤシ ユウコ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
Tel:03-3512-3526 Fax:03-3222-2066
E-mail:prestojst.go.jp -
<報道担当>
東京大学 大学院理学系研究科・理学部(担当:武田 加奈子 特任専門職員、飯野 雄一 教授・広報室長)
Tel:03-5841-0654
E-mail:media.sgs.mail.u-tokyo.ac.jp科学技術振興機構 広報課
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432
E-mail:jstkohojst.go.jp