北海道大学,科学技術振興機構(JST)

令和4年12月1日

北海道大学
科学技術振興機構(JST)

量子化学計算で、有機化合物の出発原料をゼロから予測

~網羅的な逆合成解析により高収率な化学反応を予測~

ポイント

JST事業の1つであるERATO 前田化学反応創成知能プロジェクトにおいて、北海道大学 創成研究機構 化学反応創成研究拠点(WPI-ICReDD)の美多 剛特 任准教授、および同拠点 拠点長・同大学院 理学研究院の前田 理 教授らの研究グループは、ペリ環状反応で得られる生成物(標的分子)を入力構造とし、理化学研究所(理研)のスーパーコンピューター「富岳」、および北海道大学の「グランシャリオ」を用いて量子化学的逆合成解析(QCaRA)を実施し、出発原料を正確に予測することに成功しました。

量子化学計算の究極の目的の1つに、反応中間体や遷移状態のエネルギーの計算値を基に『新しい化学反応をゼロから予測し、実験的に実現する』ことが挙げられます。この予測を可能とするためには、可能性のある反応経路を正確にかつ漏れなく計算することによって、反応経路が網目状につながれた「反応経路ネットワーク(反応中間体、および遷移状態が内包されている)」を構築し、得られた反応経路ネットワーク上で反応物を起点とした速度論シミュレーションを解くことで生成物および副生成物の反応収率を予想することが求められます。このような解析は、WPI-ICReDDの前田 拠点長により開発された反応経路自動探索法である人工力誘起反応法(AFIR法)と速度定数行列縮約法(RCMC法)を組み合わせることで可能となります。また、これらの方法を応用することで、標的分子を入力とした逆探索による化学反応を予測する量子化学的逆合成解析が可能になりました。これにより、有機化学の知識と膨大な実験データに頼ることなく、新しい化学反応をコンピューター上で予測することができるようになりました。

本研究では、このコンピューターによる反応予測の端緒を担うべく、基本的なペリ環状反応生成物を25個選択し、それに対して逆合成化学的なAFIR法を適用しました。その結果、標的分子の分子構造を1つだけ入力するのみで、実験的に報告されている経路、かつ立体特異性に従い合成の出発点となる出発原料に逆合成されることを証明しました。標的分子の原子数が大きくなると計算時間も増大しますが、52原子ある天然有機化合物の逆合成解析にも成功し、反応予測の足掛かりを築くことができました。

本研究で実施したQCaRAによる出発原料を正確に予測する手法は、次世代型の化学反応創出技術として有機合成化学分野の発展に大きく貢献することが期待されます。

本研究成果は、日本時間2022年12月1日(木)公開の「Journal of the American Chemical Society」誌のオンライン版にArticleとして掲載される予定です。

本研究は、「JST ERATO(前田化学反応創成知能プロジェクト)」(JPMJER1903)、「文部科学省 世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)」、「文部科学省 科学研究費補助金 挑戦的研究(萌芽)」(21K18945)、「文部科学省 科学研究費補助金 基盤研究(B)」(22H02069)、「文部科学省 科学研究費補助金 学術変革領域研究(A)デジタル化による高度精密有機合成の新展開」(22H05330)、「文部科学省 科学研究費補助金 若手研究」(22K14673)、「公益信託医用薬物研究奨励富岳基金」、「上原記念生命科学財団」、「内藤記念科学振興財団」、「US National Science Foundation」(CHE-1764328)の支援のもとで行われました。

<プレスリリース資料>

<論文タイトル>

“Prediction of High-Yielding Single-Step or Cascade Pericyclic Reactions for the Synthesis of Complex Synthetic Targets”
DOI:10.1021/jacs.2c09830

<お問い合わせ先>

(英文)“Automated chemical reaction prediction: now in stereo”

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