東京大学,科学技術振興機構(JST)

令和4年10月31日

東京大学
科学技術振興機構(JST)

がんになるとなぜ痩せるのか

~膵がん由来の細胞外小胞が脂肪分解を引き起こすメカニズムを解明~

ポイント

進行したがんの患者では、全身の脂肪や筋肉が萎縮して体重が極端に減少する「悪液質」の症候がしばしば見られます。一方、膵がんでは、まだ病変が局所にとどまっているうちから体重減少を呈することが知られています。なぜ膵がんでは局所に限局する小さながん病巣であっても体重減少が起きるのか、そのメカニズムは十分には解明されていませんでした。東京大学 医学部附属病院 消化器内科の柴田 智華子 病院診療医、大塚 基之 講師、藤城 光弘 教授らの研究グループは、局所にとどまるがん病巣から血中に放出された細胞外小胞が全身の脂肪細胞に働いて脂肪分解や体重減少を起こすのではないか、と仮説を立てて検討を行いました。本研究では、由来細胞がさまざまで不均一な集団である血中の細胞外小胞群の中から、膵がん由来と考えられる細胞外小胞だけを単離して解析する方法を新たに確立しました。その解析によって、膵がん由来の細胞外小胞には脂肪細胞との接着に重要な接着因子が高発現しており、脂肪細胞に接着した細胞外小胞が脂肪細胞内に取り込まれた結果、脂肪分解が起きることを見いだしました。この結果は、がん由来の細胞外小胞を新たに特異的に解析したことで得られた知見であり、がん由来の細胞外小胞を標的としたがん支持療法の開発につながることが期待されます。

本研究成果は、米国東部夏時間2022年10月31日に「Clinical and Translational Medicine(オンライン版)」にて発表されます。

本研究は、科学技術振興機構(JST) CRESTの「細胞外微粒子に起因する生命現象の解明とその制御に向けた基盤技術の創出」領域(研究課題名「細胞外微粒子の1粒子解析技術の開発を基盤とした高次生命科学の新展開」研究代表者:渡邉 力也 JPMJCR19H5)、日本医療研究開発機構(AMED)の肝炎等克服緊急対策研究事業(研究開発課題名「慢性炎症を背景とした肝発癌の機序解明と肝癌高危険群の囲い込み法の開発」研究代表者:大塚 基之 22fk0210092)と革新的がん医療実用化研究事業(研究開発課題名「血中反復配列RNAの高感度検出を基盤とした新規膵癌スクリーニング法の検証」研究代表者:大塚 基之 22ck0106557)、および文部科学省 科学研究費補助金(「肝星細胞由来の分泌膜小胞の超精密分析を基盤とした老化に伴う肝疾患の病態解明(20J20625)研究代表者:柴田 智華子」、「膵癌における反復配列RNAの機能解析と治療選択最適化への応用(22H02828)研究代表者:大塚 基之」、「膵癌で高発現する新規環状RNAの機能解明とバイオマーカーとしての有効性の検証(22K15390)研究代表者:清宮 崇博」)などの支援により行われました。

<プレスリリース資料>

<論文タイトル>

“Lipolysis by pancreatic cancer-derived extracellular vesicles in cancer-associated cachexia via specific integrins.”
DOI:10.1002/ctm2.1089

<お問い合わせ先>

(英文)“Lipolysis by pancreatic cancer-derived extracellular vesicles in cancer-associated cachexia via specific integrins”

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