ポイント
- セルロースナノファイバー(Cellulose Nano Fiber、以下CNF)を用いた製品の多くは、引っ張り強度やチクソ性などの機械的特性を利用したものですが、分子スケールの構造を通じた物性の制御性を考えると、CNFにはさらなるポテンシャルがあります。
- 流体プロセスを活用してCNFを分子スケールで配向させ、酸を用いて固めて作製した糸材が、セルロースナノペーパーなどの高熱伝導性を持つ先端木質バイオマスの5倍以上、紙など従来の木質バイオマスの100倍以上の高熱伝導性を示すことを発見しました。
- 木質バイオマスは熱伝導率の低さからこれまでは断熱材などに用いられてきましたが、従来の木質バイオマスと比べて飛躍的に熱伝導率の高い素材(CNF糸)を実現したことで、放熱性能を要求される高分子材料の代替え材としての応用が期待されます。
東京大学 大学院工学系研究科の塩見 淳一郎 教授、東京都立産業技術高等専門学校の工藤 正樹 准教授、東京大学 大学院農学生命科学研究科の齋藤 継之 教授、スウェーデン王立工科大学のLundell Fredrik 教授、Söderberg Daniel 教授らの研究グループは、木質バイオマスから得られるバイオ系ナノ材料であるCNFを流体プロセスによって分子スケールで配向させながら酸を用いて固めた糸材が、セルロースナノペーパーなどの高熱伝導性を持つ先端木質バイオマスの5倍以上、紙など従来の木質バイオマスの100倍以上の高熱伝導性を示すことを発見しました。
これまでCNFはその集合体や複合材からなるバルクCNF材を利用した製品に活用されてきました。その多くが、CNFの高い引っ張りやチクソ性を活かした包装やボールペンなどの機械的特性を利用したものです。一方で、元来CNFには分子スケールの構造を通じた物性制御が可能という利点があることを考えると、より多様で付加価値の高い物性を発現するポテンシャルがあります。
本研究グループはCNFの水分散液をフローフォーカシング流路に注入しCNFを高度に配向させたのち、流路に別途注入した酸を用いて固めて自然乾燥することでCNF糸を作製しました。さらにT型熱伝導率計測法を用いてCNF糸の熱伝導率を測定しました。その結果、特定の酸を用いた糸では熱伝導率が14.5(ワット毎 メートル 毎ケルビン)に達することを発見しました。加えて、CNFの配向度が一定のレベルに達している条件において、CNF間をつなぐ水素結合が多く、残留応力によって生じるCNF内の構造不秩序性が低い方が、高い熱伝導率が得られることを明らかにしました。
木質バイオマスは熱伝導率の低さからこれまでは断熱材などに用いられてきましたが、従来の木質バイオマスと比べて飛躍的に熱伝導率の高い素材(CNF糸)を構築する技術を発見できたことで、今後は放熱性能を要求される高分子材料の代替材としての応用が期待されます。
本研究成果は、2022年10月25日(米国東部夏時間)に米国科学誌「Nano Letters」のオンライン速報版で公開されます。
本研究の一部は、科学研究費補助金・挑戦的研究(萌芽)「超高熱伝導セルロースナノファイバーの開発」(課題番号:19K21928)および、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(CREST)「未踏探索空間における革新的物質の開発」(課題番号:JPMJCR21O2)の支援を受けて行われました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(442KB)
<論文タイトル>
- “Enhanced High Thermal Conductivity Cellulose Filaments via Hydrodynamic Focusing”
- DOI:10.1021/acs.nanolett.2c02057
<お問い合わせ先>
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塩見 淳一郎(シオミ ジュンイチロウ)
東京大学 大学院工学系研究科 附属総合研究機構/機械工学専攻 教授
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<JST事業に関すること>
嶋林 ゆう子(シマバヤシ ユウコ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
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<報道担当>
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