ポイント
- 誘電体で覆われた微細電極からなるコアシェル構造のバブルインジェクターを応用し、前例のないエレクトロメカニカルポレーションを提案し、指向性電界誘起気泡の生物医工学へのユーザビリティを例証しました。
- 細胞懸濁液の粘度を調整し、マイクロバブルを繰り返し膨張・収縮させることで、細胞への遺伝子導入を促進させ、さまざまな種類の細胞に大きな分子を導入することに成功しました。
- 本操作技術は、創薬研究・遺伝子工学・流体医工学など、多くの分野での貢献が期待されます。
九州大学 大学院工学研究院の黄 文敬 特任助教、佐久間 臣耶 准教授、鳥取 直友 助教、山西 陽子 教授、産業技術総合研究所 生物プロセス研究部門の菅野 茂夫 主任研究員らの研究グループは、電界により誘起される気泡を制御して、細胞に力学刺激を与えることで、効率的に細胞膜に穿孔(せんこう)し、数メガダルトンの分子を細胞へ導入することに成功しました。
細胞膜穿孔技術は、細胞内で発現した生体分子の活性を可視化するだけでなく、遺伝子操作を可能にする技術でもあります。しかし、巨大なゲノム情報を持ち得る大きな分子を細胞へ導入することは困難です。本研究では、この技術を見直すことで、誘電体材料で覆われた微細電極からなるコアシェル構造のマイクロバブルインジェクターを用いて、エレクトロメカニカルポレーションで細胞に穿孔をつくり、巨大なゲノム情報を持つ大きな分子を細胞へ導入できることを示しました。電極にパルス電圧を印加することで、電極の先端にマイクロバブルが発生し、細胞に電気と機械的刺激を同時に与えることができるようになりました。このような独創的な手法を用いることで、一般に分子の導入が困難とされている骨芽細胞やクラミドモナスにも、数メガダルトンの分子を導入することを可能にしました。特に、細胞懸濁液の粘度を高めることで導入効率が向上することを見いだし、これは電界誘起気泡の繰り返しの膨張・収縮(振動波)によって達成されたと推定されます。さまざまな種類の細胞への適用が可能であることから、新たな遺伝子工学への応用が数多く期待されます。
本研究は、2022年10月20日(日本時間)に英国王立化学会の科学ジャーナル「Lab on a Chip」に掲載されました。
本研究は、JST 戦略的創造研究推進事業(CREST、JPMJCR19S6)の支援を受けて行われました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(1.03MB)
<論文タイトル>
- “Viscosity-aided electromechanical poration of cells for transfecting molecules”
- DOI:10.1039/d2lc00628f
<お問い合わせ先>
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