量子科学技術研究開発機構,科学技術振興機構(JST)

令和4年8月31日

量子科学技術研究開発機構
科学技術振興機構(JST)

神経変性疾患の原因となる異常たんぱく質を生体脳で画像化することに成功

~異常たんぱく質「αシヌクレイン」病変をとらえるPET薬剤を産学連携で創出~

ポイント

量子科学技術研究開発機構 量子生命・医学部門 量子医科学研究所 脳機能イメージング研究部 樋口 真人 部長、松岡 究 研究員は、エーザイ株式会社、小野薬品工業株式会社、武田薬品工業株式会社との共同研究において、運動機能や自律神経機能に障害を引き起こす難病である多系統萎縮症の生体脳で、病気の原因と考えられる異常たんぱく質「αシヌクレイン」病変を明瞭に画像化することに成功し、世界に先駆けて学術誌に報告しました。

アルツハイマー病などに代表される難治性の脳の病気は神経変性疾患とも呼ばれ、さまざまな異常たんぱく質が脳内に蓄積して症状を引き起こすと考えられています。αシヌクレイン病変は多系統萎縮症のみならず、神経変性疾患の中でアルツハイマー病に次いで多いパーキンソン病やレビー小体型認知症においても、中心となる病変を形成することが知られています。しかし、αシヌクレイン病変を生体脳で可視化する技術はこれまで未確立で、患者が亡くなった後で病理検査により病変を調べない限り、確定診断は行えませんでした。

量研では、これまで異常たんぱく質の蓄積を生体脳で可視化する技術の開発に取り組んできました。代表的な成果として、アルツハイマー病の原因となりうるタウたんぱく質の病変を世界に先駆けて画像化することに成功しました。こうした異常たんぱく質病変の画像化に関するノウハウを活用し、量研が主宰する産学共同の研究開発体制「量子イメージング創薬アライアンス・脳とこころ」の部会において量研とエーザイ株式会社、小野薬品工業株式会社、武田薬品工業株式会社が連携し、タウ病変よりもさらに量が少なく画像化が難しいとされてきたαシヌクレイン病変の生体脳での検出に挑み、αシヌクレイン病変をPETで検出するための放射性薬剤として、18F-SPAL-T-06を開発しました。この薬剤の臨床評価を行い、多系統萎縮症の病型に応じたαシヌクレイン病変の分布を、高いコントラストで画像化することに成功しました。さらに、多系統萎縮症患者由来の脳標本でも、18F-SPAL-T-06がαシヌクレイン病変に強く結合することを実証しました。

本技術は多系統萎縮症の診断技術の確立、ひいてはαシヌクレイン病変を標的とした根本的治療薬の開発に大きく貢献すると期待されます。さらにαシヌクレインの脳内蓄積を特徴とするパーキンソン病やレビー小体型認知症でも同様の有用性が見込めることから、これらの疾患の患者を対象とした臨床研究が進行中です。

本研究成果は、神経科学分野においてインパクトの大きい論文が数多く発表されている科学誌「Movement Disorders」のオンライン版に2022年8月31日(水)(日本時間)に掲載されます。

本研究は、上述のアライアンス事業に加え、日本医療研究開発機構(AMED)による「脳とこころの研究推進プログラム(革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト)」、「脳とこころの研究推進プログラム(精神・神経疾患メカニズム解明プロジェクト)」、JSPS科研費18K07777、科学技術振興機構(JST)によるムーンショット型研究開発事業「臓器連関の包括的理解に基づく認知症関連疾患の克服に向けて(JPMJMS2024)」などの支援による研究成果である基盤技術を活用して実施された共同研究による成果です。

<プレスリリース資料>

<論文タイトル>

“High-contrast imaging of α-synuclein pathologies in living patients with multiple system atrophy”
DOI:10.1002/mds.29186

<お問い合わせ先>

(英文)“Researchers Visualize α-Synuclein Pathology in Living Patients with A Neurodegenerative Disorder”

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