ポイント
- 異種の分子が溶けた水溶液は、試験管中ではよく混ざっていても、小さな人工細胞中では分離し、また細胞サイズが小さいほど分離が進むことを発見しました。
- 小さな人工細胞でのみ生じる分離は、細胞膜が分子をえり好みする傾向が強まり、より相性の良い分子を膜に引き寄せることで生じることを明らかにしました。
- 細胞という小さな空間でみられる相分離の原理解明へ寄与するとともに、人工細胞を利用した医薬品や化粧品の材料開発への貢献が期待されます。
複数の分子が溶けた水溶液は、分子濃度が十分高くなると水と油のように分離します(相分離)。分離する条件は、溶液を入れる器のサイズ(体積)が約1マイクロリットル(1000分の1ミリリットル)以上であれば、サイズに依らないとされてきました。
東京大学 大学院総合文化研究科の柳澤 実穂 准教授(東京大学 生物普遍性連携研究機構 准教授/大学院理学系研究科 准教授)、広島大学 大学院統合生命科学研究科の渡邊 千穂 助教らは、2種類の高分子が溶けた水溶液を、大きさが変えられる人工細胞の器に入れることで、試験管中ではよく混ざっていても細胞のように小さな器では分離し、器が小さいほど分離が進むことを発見しました。さらにこの現象を、細胞膜が分子をえり好みする傾向が小さな器の中で強められ、より親和性の高い特定の分子を膜に引き寄せることから説明しました。
本成果は、近年注目される細胞内相分離の制御に生体膜や空間サイズが寄与していることを示すとともに、膜やサイズが制御可能な人工細胞を用いる医薬品や化粧品の材料開発への貢献も期待されます。本研究成果は、2022年8月24日(米国太平洋夏時間)に米国科学誌「ACS Materials Letters」のオンライン版に掲載されます。
本研究は、科研費(JP18H01187、JP21H05871、JP21K18596、JP22H01188[柳澤]、JP20K14425[渡邊])、科学技術振興機構 創発的研究支援事業(JPMJFR213Y[柳澤])、戦略的創造研究推進事業 ACT‐X(JPMJAX191L[渡邊])の支援により実施されました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(294KB)
<論文タイトル>
- “Cell-Sized Confinement Initiates Phase Separation of Polymer Blends and Promotes Fractionation upon Competitive Membrane Wetting”
- DOI:10.1021/acsmaterialslett.2c00404
<お問い合わせ先>
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<研究に関すること>
柳澤 実穂(ヤナギサワ ミホ)
東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻 准教授
E-mail:myanagisawag.ecc.u-tokyo.ac.jp
渡邊 千穂(ワタナベ チホ)
広島大学 大学院統合生命科学研究科 生命環境総合科学プログラム 助教
E-mail:cwatanhiroshima-u.ac.jp
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<JST事業に関すること>
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科学技術振興機構 戦略研究推進部 創発的研究支援事業推進室
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
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E-mail:act-xjst.go.jp
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