ポイント
- 膨大なメタゲノムデータから高い品質で個々の微生物のゲノムを解読する手法を新たに開発しました。
- 開発した手法を大規模な海洋メタゲノムデータ(約29兆塩基対)に適用した結果、59門にまたがる5万以上の原核生物ゲノムの解読に成功し、解読されたゲノムには新綱相当のものを含む、高い新規性が見いだされました。
- 得られたゲノム情報を、世界最大の海洋微生物ゲノムカタログ「OceanDNA MAGカタログ」として公開しました。
- 本研究は、「微生物ダークマター」に相当するゲノムを多数解読することで、海洋微生物の知られざる多様性を解明しました。OceanDNA MAGカタログは、海洋生態系を理解し、さらには地球環境変動の要因解明や予測のための重要な情報基盤となります。
海洋環境には「微生物ダークマター」と呼称される、未知の微生物が数多く残されています。これらの微生物がどのような生態を持ち、どういった進化を遂げてきたのかは、謎に包まれてきました。
東京大学 大気海洋研究所の西村 陽介 特任研究員(研究当時)と吉澤 晋 准教授は、メタゲノムデータを用いて、個々の微生物ゲノム(一般に、MAGと呼ばれる)を解読する手法を開発しました。この手法を用いて、公共データベースから入手可能な、さまざまな海洋環境に由来する大規模メタゲノムデータ(約29兆塩基対)を解析しました。その結果、59門にまたがる5万以上の原核生物ゲノムの解読に成功し、得られたゲノムの情報を整備して、約15,000ゲノムを収載する海洋微生物ゲノムデータベースMarDBを大幅に上回る、世界最大の海洋生物ゲノムカタログ「OceanDNA MAGカタログ」として公開しました。
本研究は、「微生物ダークマター」に相当するゲノム配列を多数解読することで、海洋原核生物ゲノムの多様性に関する知識を大幅に拡充しました。OceanDNA MAGカタログは、海洋微生物の生態や進化の過程の解明に貢献するとともに、地球環境保全に取り組むための重要な知識基盤となることが期待されます。
本研究成果は、2022年6月17日付(現地時間)「Scientific Data」のオンライン版に掲載されます。
本研究は、科学技術振興機構(JST) ACT-X「環境とバイオテクノロジー」研究領域における「メタゲノムビッグデータを活用した微生物の環境適応因子の解明」(研究代表者:西村 陽介、JPMJAX21BK)および、日本学術振興会(JSPS) 科研費(研究代表者:吉澤 晋、18K19224、18H04136、21K19134)の支援を受け行ったものです。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(678KB)
<論文タイトル>
- “The OceanDNA MAG catalog contains over 50,000 prokaryotic genomes originated from various marine environments”
- DOI:10.1038/s41597-022-01392-5
<お問い合わせ先>
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<研究に関すること>
西村 陽介(ニシムラ ヨウスケ)
海洋研究開発機構 海洋機能利用部門 生命理工学センター 特任研究員
Tel:046-867-9084
E-mail:nishimurayjamstec.go.jp吉澤 晋(ヨシザワ ススム)
東京大学 大気海洋研究所 海洋生態系科学部門/
大学院新領域創成科学研究科 自然環境学専攻 准教授
E-mail:yoshizawaaori.u-tokyo.ac.jp -
<JST事業に関すること>
宇佐見 健(ウサミ タケシ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 先進融合研究グループ
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
Tel:03-6380-9130 Fax:03-3222-2066
E-mail:act-xjst.go.jp -
<報道担当>
東京大学 大気海洋研究所 広報戦略室
E-mail:kouhouaori.u-tokyo.ac.jp
科学技術振興機構 広報課
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432
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