東京大学,科学技術振興機構(JST)

令和4年5月23日

東京大学
科学技術振興機構(JST)

二酸化炭素をほとんど排出せず、天然ガスから有用化学品を直接合成

~高性能・高耐久な鉄酸化物サブナノクラスター触媒を開発~

ポイント

東京大学 大学院工学系研究科の矢部 智宏 助教、山口 和也 教授らの研究グループは、世界で初めて600度のメタン酸化条件下で長時間安定な鉄酸化物サブナノクラスター触媒の開発に成功しました。さらにメタンから従来の鉄酸化物触媒を超えるホルムアルデヒド・一酸化炭素への転換を達成し、二酸化炭素排出量の低減にも成功しました。

天然ガス(メタン)を原料とする新たな化学品合成技術が望まれていますが、メタンの活性化には高温に熱する必要があり、このような過酷な条件では生成物がさらに酸素と反応し、二酸化炭素が排出されることが課題でした。従来の鉄酸化物触媒では、メタン酸化に対して高活性を示すことが知られていましたが、高温条件により触媒の劣化を引き起こし、触媒活性は時間とともに低下していく点が依然として課題でした。そこで本研究では、分子状鉄–タングステン酸化物を触媒の前駆体に用いることで、二酸化炭素の排出を抑えながら効率よくメタンを転換し、さらに600度でも触媒が劣化しない、長時間安定な鉄酸化物サブナノクラスター触媒の開発に成功しました。具体的には、従来の鉄酸化物触媒では二酸化炭素の排出量が生成物全体の27パーセントであったのに対して、今回新たに開発した触媒では9パーセントと少ない二酸化炭素排出量で、より効率良くホルムアルデヒド・一酸化炭素へ転換することに成功しました。本成果により、天然ガスを有用化学品に転換でき、現代社会が直面する石油依存という問題からの脱却や二酸化炭素排出の低減が可能になります。今後、高性能・高耐久性を持つ金属酸化物サブナノクラスター触媒を設計できるため、さまざまな工業触媒プロセスへの応用が期待されます。

本研究成果は、2022年5月19日(現地時間)にオランダ学術誌「Applied Catalysis B: Environmental(アプライド・キャタリシスB・エンバイロメンタル)」のオンライン版に掲載されました。

本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)研究領域「多様な天然炭素資源の活用に資する革新的触媒と創出技術」(研究総括:上田 渉)における研究課題「超臨界メタンを基質兼媒質とした均一系・不均一系触媒プロセスの開発(JPMJCR17P4)」(研究代表者:山下 誠)、日本学術振興会 科学研究費助成事業(20K15085)による支援を受けて行われました。

<プレスリリース資料>

<論文タイトル>

“Selective oxidation of methane into formaldehyde and carbon monoxide catalyzed by supported thermally stable iron oxide subnanoclusters prepared from a diiron-introduced polyoxometalate precursor”
DOI:10.1016/j.apcatb.2022.121420

<お問い合わせ先>

(英文)“Selective oxidation of methane into formaldehyde and carbon monoxide catalyzed by supported thermally stable iron oxide subnanoclusters prepared from a diiron-introduced polyoxometalate precursor”

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