ポイント
- 腸管出血性大腸菌EC869株の接触依存性増殖阻害(CDI)に関与するたんぱく質(CdiA-CTEC869)は、隣接する細菌内の翻訳伸長因子によって活性化され、特定のtRNAを切断し、細菌の増殖を抑制します。
- CdiA-CTEC869が翻訳伸長因子と複合体を形成することによりCdiA-CTEC869のtRNAへの親和性とtRNA切断の反応性が高まり、その結果tRNAが切断されることが明らかになりました。
- 翻訳伸長因子がたんぱく質合成伸長過程の機能とは異なり、細菌の生存競争に関わる現象において、tRNA切断の反応場として働くこれまで知られていなかった新たな機能を見いだしました。
接触依存性増殖阻害(CDI)は、細菌の生存競争に関わる現象です。CDIは、細菌から接触依存性増殖阻害たんぱく質(CdiA-CT)が隣接する別の細菌内へ挿入され、CdiA-CTが隣接細菌の増殖を阻害することによって起きます。CDIは病原性細菌に広く見いだされ、病原性細菌の優先的な増殖、
今回、東京大学 大学院新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻の王 晶 大学院生(博士課程)、八代 悠歌 特任助教、富田 耕造 教授らの研究グループは、東京大学 大学院工学系研究科 化学生命工学専攻の坂口 裕理子 特任研究員、鈴木 勉 教授との共同研究において、病原性腸管出血性大腸菌(EC869株)の有するCdiA-CTが隣接する細菌内で翻訳伸長因子であるTu、Tsと3者複合体を形成し、CdiA-CTが複合体中のTu:Tsを反応の足場(scaffold)として利用して特定のtRNAを効率良く切断する分子機構を明らかにしました。
本研究成果はたんぱく質合成に必須な翻訳伸長因子が細菌の生存競争プロセスにおいて、これまで知られていなかった新たな機能を持つことを明示したものであり、あらゆる生物が持つ生命に不可欠な翻訳因子の多機能性を明らかにしたものです。
本研究成果は、4月12日付けで「Nucleic Acids Research」にオンライン掲載されます。
本研究は、日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究A(18H03980)、基盤研究S(18H05272)、文部科学省 科学研究費助成事業 新学術領域研究(26113002)、科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業(ERATO、JPMJER2002)などの支援を受けて行われました。
<プレスリリース資料>
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<論文タイトル>
- “Mechanistic insights into tRNA cleavage by a contact-dependent growth inhibitor protein and translation factors”
- DOI:10.1093/nar/gkac228
<お問い合わせ先>
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富田 耕造(トミタ コウゾウ)
東京大学 大学院新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻 教授
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