奈良先端科学技術大学院大学,大阪大学,立命館大学,科学技術振興機構(JST)

令和4年3月25日

奈良先端科学技術大学院大学
大阪大学
立命館大学
科学技術振興機構(JST)

自然光変動の影響を大幅に軽減できる分光撮影技術を開発

~世界遺産の撮影で実証、期待されるデジタルアーカイブ技術の向上~

奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 情報科学領域の光メディアインタフェース研究室の舩冨 卓哉 准教授、向川 康博 教授らは、大阪大学 大学院情報科学研究科の松下 康之 教授、千葉大学の久保 尋之 准教授、立命館大学の田中 賢一郎 准教授らと共同で、自然光の変動の影響を大幅に軽減し、高精度に光の波長ごとの明るさを計測できる分光撮像技術を開発しました。また、フランスのピカルディ・ジュール・ヴェルヌ大学のカロン・ギヨム 准教授(兼:産業技術総合研究所 AIST-CNRSロボット工学連携研究ラボ 国際客員研究員)、ムアディブ・ムスタファ 教授らと共同でレーザーや写真を用いた測量を行う建築遺産のデジタル化プロジェクトに参画し、世界遺産であるアミアン大聖堂のステンドグラスの分光撮像に成功しました。

高分解能分光計と回転ミラーシステムという装置で構成される計測システムによって、400-2500ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートル)の範囲において1ナノメートル以下の分解能での高精細な分光撮像が可能となっています。ただし、このシステムは、画像の1画素ずつを順次計測する方式であるため、画像全体を計測するためには、数時間程度を要します。また大規模な建造物を対象とする場合には、自然光下での計測となるため、天気や太陽高度などの経時変化の影響を受け、正しい計測ができないという問題がありました。これに対して今回、回転ミラーシステムが持つ柔軟な計測能力を生かし、分光撮像の際に1行ずつ画像全体を計測することに加え、垂直方向の計測を1列だけ追加することにより、撮像が自然光の変動から受ける影響を大幅に軽減する技術を開発しました。

今回開発した分光撮像技術の向上により、貴重な資料をデジタル化して記録保存する「デジタルアーカイブ」の文化的・学術的・社会的資源としての価値を高めることができます。災害などによる文化財の消失への備えとしての役割はもちろん、大聖堂に設置されたステンドグラスなどの貴重な文化財をあるがままで分光解析を行うことが可能になり、見た目では分からない組成に関する解析や、さまざまな歴史的資料の検証にも役立つことが見込まれます。また、多様な環境下におけるステンドグラスの見え方を、よりリアルに再現できるVRの鑑賞など、コロナ禍の観光資源として新たな活用が期待されます。

この研究成果は、情報学における国際論文誌「International Journal of Computer Vision」の特集号「Computer Vision and Cultural Heritage Preservation」に2022年3月25日(金)(日本時間)に公開されます。

本研究は、科学技術振興機構(JST) CRESTの研究領域「計測技術と高度情報処理の融合によるインテリジェント計測・解析手法の開発と応用」の研究課題「多元光情報の符号化計測と高次元化処理の協調設計」の一環として行われました。

<プレスリリース資料>

<論文タイトル>

“Eliminating Temporal Illumination Variations in Whisk-broom Hyperspectral Imaging”
DOI:10.1007/s11263-022-01587-8

<お問い合わせ先>

(英文)“Keeping the light from fading”

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