科学技術振興機構(JST),東海大学,東京大学

令和4年3月16日

科学技術振興機構(JST)
東海大学
東京大学

リンパ腫における細胞外小胞を介した新規発がんメカニズムを発見

~脂質を軸とした新たな治療法の開発に期待~

ポイント

JST 戦略的創造研究推進事業およびAMED 次世代がん事業などにおいて、東海大学 医学部の幸谷 愛 教授および東京大学 大学院医学系研究科の村上 誠 教授は、東海大学 大学院医学研究科の工藤 海 大学院生、東京大学 大学院医学系研究科の三木 寿美 特任研究員らとともに、リンパ腫の発生や悪性化における細胞外小胞(EV)の新規作動メカニズムを発見しました。

東海大学 幸谷グループでは、これまでにEpstein-Barrウイルス(EBV)陽性B細胞性悪性リンパ腫の発症におけるEVの役割を調査してきましたが、その作動メカニズムの全容は明らかになっていませんでした。一方、東京大学 村上グループでは、これまでに細胞外環境に存在するリン脂質分解酵素「分泌型ホスホリパーゼA2(sPLA)」が関与する数多くの生命現象を明らかにしてきましたが、実際にsPLAが細胞外で基質としているリン脂質の供給源は不明でした。

本研究では、悪性リンパ腫組織中の腫瘍随伴マクロファージ(TAM)から分泌されるsPLAが腫瘍細胞由来EVのリン脂質を分解することを証明しました。さらに、この分解により「細胞への取り込まれやすさ」や「免疫抑制効果」などのEVの機能が飛躍的に向上し、さまざまな生命現象が誘導されることが分かりました。このとき、EVリン脂質の分解産物であるリゾリン脂質などが細胞にシグナルを伝達しているという、これまでのEV生物学にはない新規作動メカニズムを介することを発見しました。そして本研究グループはヒトにおけるリンパ腫発生を再現したモデルマウスを使って、sPLAによるEV分解が腫瘍形成において必要不可欠であることを証明しました。また実際のヒト患者検体の解析からもsPLAが腫瘍形成と悪性化に関わることを示しました。

一方で、本研究ではリンパ腫由来EVのみならず他のがん細胞由来EVもsPLAにより分解されることを証明し、sPLA-EV軸は腫瘍形成において共通の現象であることを明らかにしました。今後はこのsPLA-EV軸が新たな「免疫チェックポイント」として、がん治療のための新しい薬物標的となることが期待されます。また本研究で証明されたsPLAによるEV機能の増強効果から、過去に幸谷グループで報告した「組織保護・抗炎症作用を持つEV」などのさまざまな種類のEVが持つ固有の能力をsPLAが増強するのではないかという仮説の検証も現在行っており、今後は治療的応用への発展も期待されます(特許出願中)。

本研究は、東海大学 血液腫瘍内科の安藤 潔 教授、東海大学 病理診断学の中村 直哉教授、Joaquim Carrelus 講師、東北大学の井上 飛鳥 准教授、徳島大学の山本 圭 准教授、Massachusetts General Hospital/Harvard Medical Schoolの樋口 廣士 研究員、滋賀医科大学の森田 真也 教授、東京大学 大学院薬学系研究科の青木 淳賢 教授らを含む複数機関との共同研究によって得られました。

本研究成果は、2022年3月15日(米国東部時間)に米国科学誌「Cell Metabolism」のオンライン版で公開されます。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

JST 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)

「細胞外微粒子に起因する生命現象の解明とその制御に向けた基盤技術の創出」
(研究総括:馬場 嘉信 名古屋大学 大学院工学研究科 教授)
「細胞外微粒子の1粒子解析技術の開発を基盤とした高次生命科学の新展開」
渡邉 力也(理化学研究所 主任研究員)
幸谷 愛(東海大学 医学部 教授)
平成29年10月~令和6年3月

JSTはこの領域で、細胞外微粒子に起因する生命現象の解明およびその理解に基づく制御技術の導出を目的とします。上記研究課題では、理・工・医学の融合により生体微粒子の組成・機能を解析し、疾患の制御に向けた新規医薬技術基盤の創出を目指します。

AMED 次世代がん医療創生研究事業

「細胞外脂質代謝酵素によるエクソソームの脂質修飾を介したがん微小環境の制御」
村上 誠(東京大学 大学院医学系研究科 教授)
幸谷 愛(東海大学 医学部 教授)
令和2年度~令和3年度

AMED-CREST 革新的先端研究開発支援事業

「生体組織の適応・修復機構の時空間的解析による生命現象の理解と医療技術シーズの創出」
(研究総括:吉村 昭彦 慶應義塾大学 医学部 教授)
「疾患脂質代謝に基づく生体組織の適応・修復機構の新基軸の創成と医療技術シーズの創出」
村上 誠(東京大学 大学院医学系研究科 教授)
令和2年度~令和7年度

JSPS 挑戦的研究(萌芽)

「分泌性PLA2による新しいエクソソームバイオロジーの構築」
幸谷 愛(東海大学 医学部 教授)
令和2年度~令和3年度

<プレスリリース資料>

<論文タイトル>

“Secreted phospholipase A2 modifies extracellular vesicles and accelerates B-cell lymphoma”
DOI:10.1016/j.cmet.2022.02.011

<お問い合わせ先>

(英文)“New Oncogenic Mechanisms in Lymphoma via Extracellular Vesicles Discovered”

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