北海道大学,科学技術振興機構(JST)

令和4年3月14日

北海道大学
科学技術振興機構(JST)

遷移金属触媒反応開発の新戦略“バーチャル配位子”を開発

~遷移金属触媒反応開発コストの大幅削減へ~

ポイント

北海道大学 創成研究機構 化学反応創成研究拠点(WPI-ICReDD)、同 大学院理学研究院の前田 理 教授らの研究グループは、遷移金属触媒反応の開発において最も重要な過程の1つである配位子スクリーニングを、量子化学計算によって加速させる「バーチャル配位子アシスト(VLA)スクリーニング法」を開発しました。

遷移金属触媒反応は、「遷移金属錯体」を触媒として用いる反応であり、医薬品や電子材料、機能性材料開発の根幹を担う有機合成化学において、最も重要な科学技術の1つです。これらの反応で鍵となる遷移金属錯体は、反応の中心となる「遷移金属」とその反応性を調整する「配位子」から構成されます。配位子は、その化学構造に応じて極めて多くの種類が存在するうえ、その1つ1つが異なる反応性を示します。したがって、遷移金属触媒反応の開発では、莫大ばくだいな配位子候補の中から目的の反応に最適な配位子を選択する「配位子スクリーニング」の過程が極めて重要です。従来、この過程は実験的なトライアンドエラーによって行われてきましたが、多大な時間とコストを要する、多量の廃棄物を排出するなどの課題がありました。

本研究では、量子化学計算において、配位子が遷移金属に与える影響を簡便なモデルで再現する「バーチャル配位子」の開発に成功しました。さらに、このバーチャル配位子のパラメーターを最適化することで反応に最適な配位子を提案する「VLAスクリーニング法」を世界で初めて実現しました。このVLAスクリーニング法は、実験を行うことなくコンピューター上で最適配位子の予測を可能にします。したがって、従来のトライアンドエラーにおいて問題であった、開発時間やコスト、廃棄物に関する問題を解決し、新しい遷移金属触媒反応開発プロセスへと発展することが期待されます。

なお、本研究成果は、日本時間2022年3月14日(月)公開の「ACS Catalysis」に掲載される予定です。

本研究は、「JST-ERATO(前田化学反応創成知能プロジェクト)」(JPMJER1903)、「文部科学省 世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)」の支援のもとで行われました。

<プレスリリース資料>

<論文タイトル>

“Virtual Ligand-Assisted Screening Strategy to Discover Enabling Ligands for Transition Metal Catalysis”
DOI:10.1021/acscatal.2c00267

<お問い合わせ先>

(英文)“Chemical reaction design goes virtual”

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