ポイント
- 多くの遺伝子が関わる複雑な形質を高速で改良できるゲノム再編成誘発技術「TAQingシステム」を改良し、外来のDNAやRNAを一切導入せずにゲノム育種を行う新技術「TAQing2.0」を開発しました。
- 本技術では、細胞膜貫通ペプチドを用いてDNA切断活性を持つたんぱく質を細胞内に導入し、大規模かつランダムにゲノム全体を再編成させることができます。
- 本技術により、生物の交配(有性生殖)が不能で通常の交配による育種が不可能な産業用微生物において、形質の効率的な改良が可能になりました。この技術を種々の生物に応用することで、従来得られなかった新しいタイプの作物品種や変異株を効率的かつ高速に取得することが可能になります。また、得られた改良株には外来DNAが一切含まれていないため、これまでの遺伝子組み換え生物よりも社会的に受容されやすいと期待されます。
東京大学は三菱商事ライフサイエンス株式会社と共同で、外部から遺伝物質を持ち込まずに生物のゲノムDNAを大規模に再編成し、生物機能の改良を加速する新技術「TAQing2.0」の開発に成功しました。
有用な農作物や発酵性微生物の改良には、古来有性生殖の仕組みを用いた交配という手法が用いられてきました。本技術では外部から遺伝子を導入することなく、すでに存在する遺伝情報の組み合わせを変化させて新しい形質(性質や特徴)を生み出します。社会的にも受け入れられやすいゲノム改良技術であり人類の歴史で長く用いられてきた一方、掛け合わせによって子孫を残す能力を失った生物が一部に存在しこれらの生物では交配による育種は不可能でした。
本研究では、細胞にDNA切断酵素を直接導入することで、有性生殖能を欠く生物種でも、自然界の交配の際に生じるゲノム再編成過程と似た大規模ゲノム再編成を誘発することが可能になりました。
TAQing2.0を用いることで、これまで交配による育種が困難であった工業用微生物についても、高い効率で自然変異に近い形のゲノム改良が可能となります。また、感染症創薬研究という観点からは、抗生物質産生菌にTAQing2.0を適用することで、天然物の合成に関わる休眠遺伝子の活用が可能になり、新規の抗生物質リード化合物の創製が可能になります。これは将来の新興・再興感染症への対抗手段の1つとなることが期待されます。
本研究成果は、2022年2月17日(日本時間)に「Communications Biology」(オンライン版)に掲載されます。
本研究は、JST CREST研究費(JPMJCR18S3)、AMED 新興・再興感染症研究基盤創生事業(JP20wm0325003)の助成により支援されました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(512KB)
<論文タイトル>
- “TAQing2.0 for genome reorganization of asexual industrial yeasts by direct protein transfection”
- DOI:10.1038/s42003-022-03093-6
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