ポイント
- ロボット実験および機械学習(AI)を用いて、粉体膜乾燥プロセスにおけるひび割れを最小とする加熱温度パターンを、約3万(85)通りの候補からわずか40回の試行での発見に成功しました。
- 網羅的回数の0.12パーセントの試行回数で最適な加熱温度パターンを発見しただけでなく、1段階目の加熱で表面に適度な膜を張り、2段階目の加熱で内部の粒子の再配列を許しながら徐々に溶媒が蒸発する「2段階加熱」という斬新な加熱方法を見いだしました。
- 燃料電池や蓄電池など、日本が先行し続けるべき粉体成膜プロセス開発の競争力強化につながります。
東京大学 大学院工学系研究科の長藤 圭介 准教授、永井 鴻平(修士課程2年)、冨澤 森生(博士課程3年)らの研究グループは、燃料電池などのものづくりの核になる粉体膜乾燥プロセスを高速で最適化する手法を開発し、新しい加熱方法を発見しました。ロボット実験とAIを用いて粉体膜乾燥プロセスに対して実証したのは世界で初めてです。
粉体成膜は、「お好み焼き」や「もんじゃ焼き」と同様に、粉を液体に混ぜたインクを「加熱して、乾かす」身近な方法です。しかし、複雑な現象のため、加熱温度や加熱時間などの膨大なパラメーターから最適な条件を探索するには、これまで人の勘・コツ・経験に依存してきました。
本研究では、粉体成膜のうち粉体膜乾燥プロセスに着目し、人の作業に頼ることなく素早く実験し、人知を超えうる新しい加熱方法が探索できることを実証しました。材料やプロセスの開発競争が世界で激化している中、匠の技の伝承の問題を解決しつつ、日本のものづくりの力を飛躍的に伸ばす重要なツールとなります。
本成果は、2022年2月8日(英国標準時)に英国科学誌「Scientific Reports」にオンライン掲載されます。
本研究は、科学技術振興機構(JST) 未来社会創造事業 「共通基盤」領域、探索研究「粉体成膜プロセス研究のハイスループット化のためのデータ駆動型プロセス・インフォマティクス(課題番号:JPMJMI19G3)」、および、本格研究「マテリアル探索空間拡張プラットフォームの構築(課題番号:JPMJMI21G2)」の支援により実施されました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(727KB)
<論文タイトル>
- “Sample-efficient parameter exploration of the powder film drying process using experiment-based Bayesian optimization”
- DOI:10.1038/s41598-022-05784-w
<お問い合わせ先>
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