ポイント
- 蜂の巣格子を持つ磁性絶縁体α-RuCl3(塩化ルテニウム)の試料端(エッジ)においてマヨラナ粒子が存在することは報告されていましたが、試料内部(バルク)の状態は不明でした。
- 今回、磁場中比熱の精密測定により、試料内部でマヨラナ粒子が存在し、その現れやすさが蜂の巣格子面内での磁場方向に強く依存することが明らかとなりました。
- 試料内部のマヨラナ粒子が、環境ノイズに強いトポロジカル量子コンピューターを可能にする「非可換エニオン」の元となる、というキタエフ模型の理論の基礎特性を裏付ける結果であり、非可換エニオンの理解が進展することが期待されます。
東京大学 大学院新領域創成科学研究科の田中 桜平 大学院生、水上 雄太 助教、橋本 顕一郎 准教授、芝内 孝禎 教授、東京工業大学 理学院の栗田 伸之 助教、田中 秀数 教授、大阪大学 大学院基礎工学研究科の藤本 聡 教授、京都大学 大学院理学研究科の松田 祐司 教授らの研究グループは、韓国科学技術院と共同で、キタエフ模型を実現する候補物質であるα-RuCl3(塩化ルテニウム)において、磁場方向に強く依存するマヨラナ粒子の振る舞いを観測しました。
近年、盛んに研究されているトポロジカル物質においては、電子の状態が持つ特殊な数学的構造のため、試料内部のバルク状態と、試料端のエッジ状態が対応して存在します。これまで、エッジ状態におけるマヨラナ粒子の振る舞いは観測されていましたが、バルク状態におけるマヨラナ粒子の振る舞いはまだ解明されていませんでした。
今回、バルク状態を鋭敏に検出する比熱測定を磁場中で精密に行い、キタエフ模型の理論で予測される振る舞いと非常によく一致する磁場方向依存性を観測しました。磁場中におけるマヨラナ粒子の性質が明らかになることで、環境ノイズに強いトポロジカル量子コンピューターを実現する「非可換エニオン」の理解が進展することが期待されます。
本研究成果は2022年1月31日(英国時間)付けで、英国科学誌「Nature Physics」にオンライン掲載される予定です。
本研究は科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 CREST「トポロジカル材料科学に基づく革新的機能を有する材料・デバイスの創出」(研究代表者:松田 祐司)研究領域[JPMJCR19T5]、科学研究費新学術領域研究(研究領域提案型)「量子液晶の物性科学」(領域代表:芝内 孝禎 教授)[JP19H05824]、科学研究費補助金[JP19H00649、JP18H05227、JP20H02600、JP17H01142、JP19K03711、JP19K22123、JP18H01853、JP18KK0375]などの助成を受けて行われました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(435KB)
<論文タイトル>
- “Thermodynamic evidence for field-angle dependent Majorana gap in a Kitaev spin liquid”
- DOI:10.1038/s41567-021-01488-6
<お問い合わせ先>
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