大阪大学,京都大学,科学技術振興機構(JST)

令和3年11月9日

大阪大学
京都大学
科学技術振興機構(JST)

胎児の神経を形作る仕組みは精密な温度センサー

~母体の体温維持が神経の成熟に重要であることを示唆~

ポイント

大阪大学 蛋白質研究所 蛋白質ナノ科学研究室の鈴木 団 講師と、東京都 健康安全研究センターの久保田 寛顕 主任研究員、京都大学 白眉センターの宮﨑 牧人 特定准教授(兼 JSTさきがけ)、早稲田大学の小川 裕之氏(研究当時)、および石渡 信一 名誉教授らによる共同研究グループは、神経細胞の成熟に重要な細胞内の仕組みが、温度によって精密に制御されることを発見しました。

私たちの体に備わる温度センサーが今年のノーベル医学・生理学賞の対象になったのは、まだ記憶に新しいでしょう。温度センサーが、細胞のある特定の要素(たんぱく質)であるのを見いだしたことが、受賞理由の1つでした。しかし、体の中で起きている化学反応(例えば食べ物の消化や代謝)や物理的な過程(例えば神経伝達物質の拡散)は一般に、温度に応じて変化します。温度変化がわずかなら、それぞれの反応もあまり大きくは変わりません。しかし「生命」は、それらの複雑な反応ネットワークです。温度が少し変化しただけで、ネットワーク全体の挙動が大規模に変化するといった可能性は、無いのでしょうか。

このようなアイデアの検証を続けて来た鈴木 講師らのグループは、今回、動物の胎児の神経細胞に存在し、細胞の中で力を出して細胞の形作りに関わるたんぱく質と、温度に応じた力の制御に着目しました。そして精製した3種類のたんぱく質を用いて、細胞内の現象を人工的な環境下で再構成しました。一般にたんぱく質は、精製すると熱に弱くなります。しかし研究グループは、赤外レーザーを用いた素早く精密な温度操作技術を顕微鏡による計測技術と組み合わせることで、体温付近での実験に成功しました。その結果、37度付近でのみ、力の制御が鋭敏になることを発見しました。母体の体温の精密な制御には、たんぱく質が出す力を整え、神経系の正常な成熟を支える役割があることが示唆されます。また細胞に備わるさまざまな温度センサーの理解が進めば、ナノスケールの温度センサーを、人工的に作れるようになるかもしれません。

本研究成果は、アメリカ化学会(ACS)発行の「Nano Letters」(オンライン)に、2021年11月9日(火)(日本時間)に公開されます。

本研究は、日本学術振興会 科学研究費補助金、JST さきがけ(JPMJPR20ED)、発酵研究所、ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム(HFSP)の支援により得られたものです。

<プレスリリース資料>

<論文タイトル>

“Microscopic temperature control reveals cooperative regulation of actin–myosin interaction by drebrin E”
DOI:10.1021/acs.nanolett.1c02955

<お問い合わせ先>

(英文)“Intracellular temperature sensors: Protein complex exhibits temperature-sensitive activity”

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