東京大学,東北大学,理化学研究所,科学技術振興機構(JST)

令和3年10月13日

東京大学
東北大学
理化学研究所
科学技術振興機構(JST)

トポロジカルスピン構造から生じる磁気光学応答の観測に成功

ポイント

伝導電子と磁性との相互作用の結果、電流と垂直方向に電圧が生じる現象は「異常ホール効果」と呼ばれ、基礎研究・デバイス応用の両観点から大きな注目を集めています。異常ホール効果が生じるメカニズムはこれまでにさまざまな観点で研究されており、近年では電子構造のトポロジーが重要な役割を担っていることが明らかになっています。最近では、さらにトポロジカルな磁気構造の形成により発現するホール効果(トポロジカルホール効果)が観測され、大きな注目を集めています。しかし、トポロジカルホール効果に関しては、その発現機構の解明に迫る実験的手段は限定されていました。

東京大学 大学院工学系研究科の林 悠大 大学院生と岡村 嘉大 助教、金澤 直也 講師、高橋 陽太郎 准教授、理化学研究所 創発物性科学センターの十倉 好紀 センター長を中心とする研究グループは、東北大学 金属材料研究所の塚﨑 敦 教授、東北大学 大学院理学研究科 物理学専攻の是常 隆 准教授、東京大学 大学院工学系研究科の余 同樺 大学院生、有田 亮太郎 教授、市川 昌和 名誉教授、川﨑 雅司 教授らの研究グループと共同で、カイラル磁性体MnGe(Mn:マンガン、Ge:ゲルマニウム)の薄膜において、トポロジカル磁気構造の形成に由来する巨大な磁気光学効果を発見しました。

MnGe薄膜では、低温においてヘッジホッグ格子と呼ばれる特異なスピン構造(トポロジカルスピン構造)に由来した、トポロジカルホール効果を生じることが知られています。今回、林 悠大 大学院生らはテラヘルツ帯において、磁気光学ファラデー効果の測定を行いました。その結果、ファラデー効果が急峻に増大する特徴的な共鳴スペクトルを観測することに成功しました。理論モデルによる解析からこの共鳴構造がMnGeの異常ホール効果やトポロジカルホール効果の主たる起源であることが分かりました。

今回得られた成果は、トポロジカルスピン構造が電子状態に強く干渉し巨大なトポロジカルホール効果を発現させることを強く示唆しています。本成果は今後、トポロジカル磁気構造を利用した新しい光デバイスの開発へとつながることが期待されます。

本研究成果は、英国科学雑誌「Nature Communications」に英国時間2021年10月13日に掲載されます。

本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 CREST「ナノスピン構造を用いた電子量子位相制御ナノスピン構造を用いた電子量子位相制御(研究代表者:永長直人)」(No.JPMJCR1874)、日本学術振興会(JSPS)科学研究費 若手研究「磁気スキルミオンによる新奇トポロジカル電荷ダイナミクスの探索(研究代表者:岡村 嘉大)」(No.19K14653)の支援を受けて行われました。

<プレスリリース資料>

<論文タイトル>

“Magneto-optical spectroscopy on Weyl nodes for anomalous and topological Hall effects in chiral MnGe”
DOI:10.1038/s41467-021-25276-1

<お問い合わせ先>

(英文)“Magneto-optical spectroscopy on Weyl nodes for anomalous and topological Hall effects in chiral MnGe”

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