ポイント
- 微細藻類や植物の光合成活性を阻害してしまう物質として、微細藻類自体が産生する脂肪酸に含まれる多価不飽和脂肪酸が知られており、今回、その阻害作用の分子メカニズムを解明した。
- 遊離した多価不飽和脂肪酸が、光合成の場であるチラコイド膜にある主要なリン脂質であるホスファチジルグリセロールに特異的に取り込まれることで、光合成装置を不安定化して失活させることを明らかにした。
- 本研究成果は、光合成微細藻類を用いたバイオディーゼルなどのバイオ燃料生産の増産に寄与することができる。また、脂肪酸は環境中で生物によって容易に分解される物質であるため、環境負荷の低い農薬や藻類防除薬として期待できる。
脂肪酸はバイオディーゼルの原料です。世界的に脱炭素社会を目指す機運から、アメリカ合衆国や日本を中心に光合成微細藻類を用いて脂肪酸生産を行う研究が盛んに行われています。しかし、微細藻類自体が産生する脂肪酸に含まれる多価不飽脂肪酸が光合成を阻害してしまうことから、増産の大きな課題となっていました。
東京大学 大学院総合文化研究科の神保 晴彦 助教、和田 元 教授、中部大学 応用生物学部の愛知 真木子 准教授らは、脂肪酸が光合成を阻害してしまう分子メカニズムの解明に挑みました。光合成では、光エネルギーを変換して細胞内へとエネルギーを供給しています。脂肪酸が光合成を阻害することは知られていましたが、どのような分子メカニズムで阻害するのかは明らかではありませんでした。
本研究では、光合成が過剰な光エネルギーを受けた際に失活してしまう現象(光阻害)に着目して、強光下において脂肪酸が光合成に与える影響を解析しました。その結果、脂肪酸の中でも2重結合を2つ以上持つ多価不飽和脂肪酸が、特定の膜脂質に取り込まれることで、光合成活性を阻害していることを明らかにしました。
本研究成果は、バイオ燃料の原料となる脂肪酸の増産に寄与するだけでなく、多価不飽和脂肪酸をベースとした農薬、赤潮やアオコの防除薬など、環境負荷の低い機能性分子の創出にもつながることが期待されます。
本研究成果は、「International Journal of Molecular Sciences(2021年9月28日出版)」に掲載されました。
本研究は、日本学術振興会 科学研究費助成事業 若手研究「光合成の修復における脂質代謝機構の解明」(研究代表者:神保 晴彦、19K16161)、科学技術振興機構(JST) ACT-X「環境とバイオテクノロジー」研究領域における「ケミカルバイオロジーを用いた光合成の活性制御機構の解明」(研究代表者:神保 晴彦、JPMJAX20B7)、未来社会創造事業「地球規模課題である低炭素社会の実現」領域における「ミルキング法によるバイオ燃料生産の高効率化と安定化」(研究開発代表者:小俣 達男、JPMJMI17EE)の支援を受け行ったものです。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(315KB)
<論文タイトル>
- “Specific incorporation of polyunsaturated fatty acids into the sn-2 position of phosphatidylglycerol accelerates photodamage to photosystem II under strong light”
- DOI:10.3390/ijms221910432
<お問い合わせ先>
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東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻 助教
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中部大学 応用生物学部 応用生物化学科 准教授
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