東京大学,科学技術振興機構(JST)

令和3年8月14日

東京大学
科学技術振興機構(JST)

網膜層厚を用いた緑内障視野予測のための新機械学習技術を開発

~視野感度の推定精度向上と視野欠損予測で治療計画に貢献~

ポイント

東京大学 大学院情報理工学研究科、東京大学 医学部附属病院 眼科(研究開発当時)、香港理工大学からなる研究グループは、機械学習技術を用いた緑内障視野予測のための新しい手法を開発し、世界最高レベルの予測精度を達成しました。これは網膜層厚と視野感度といった異種のデータを統合して視野欠損度合いを推定・将来予測する技術です。本技術により緑内障の進行を早期に予測し、治療計画を立てることが可能になるとともに、視野感度推定による検査コストの削減が期待できます。

緑内障進行の診断および予測は、主に視野感度を用いて行われています。これは視野計を用いた視野検査で患者の視野の光感度を計測して得られるデータです。しかし、この検査には時間がかかること、また検査に測定誤差が入りやすいという問題がありました。一方で、近年では光干渉断層計を用いて短時間で網膜各層の層厚が計測できる検査が普及してきました。そこで、研究グループは、

  • ①網膜層厚データから現時点の視野感度をいかに精度良く推定できるか
  • ②緑内障進行予測のために、視野感度と網膜層厚を統合して「将来の」視野の欠損具合をいかに精度よく予測できるか
という課題に取り組みました。

その結果「マルチタスク潜在空間統合学習」という新しい機械学習技術を開発することにより、①現時点の視野感度の精度の高い推定と②将来の視野感度の精度の高い予測という異なる課題を同時に解決することに成功しました。

本技術は、視野感度と網膜層厚のデータの時空間的特徴を、低次元に圧縮して表現した「潜在空間」と呼ばれる世界の中で統合して学習することを特徴とします。また、学習の際に推定に用いた情報と予測に用いた情報を共有する(マルチタスク学習)ことで、両者の高精度化を実現した結果、①の推定誤差と、②の予測誤差について、平方根平均2乗誤差が従来手法の世界最良の結果をそれぞれ6.33パーセントと3.48パーセント上回りました。この成果は当研究において、実用化に向けた着実な一歩を示すものです。

これまでは「現時点での視野感度の推定」と、「将来の視野感度の欠損度合いの予測」はそれぞれ独立して考えられてきましたが、今回同時に扱うことで、共に世界最高の精度を達成しました。

本研究成果は2021年8月14日から18日までオンラインで開催される国際会議「ACM SIGKDD International Conference on Knowledge Discovery and Data Mining」(KDD2021)で発表される予定です。KDDは計算機学会Association for Computing Machinery(ACM)の知識発見・データマイニング分野の分科会(Special Interest Group on Knowledge Discovery and Data Mining、SIGKDD)によるデータサイエンスの世界最大級の国際会議です。

本研究成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業

AIP加速課題 研究期間:2019年4月~2022年3月
(AIPネットワークラボ長:江村 克己 所属:日本電気株式会社 役職:NECフェロー)
「潜在空間を高度活用したディープナレッジの発見」(JPMJCR19U4)
山西 健司(東京大学 大学院情報理工学系研究科 教授)

<プレスリリース資料>

<論文タイトル>

“PAMI: A Computational Module for Joint Estimation and Progression Prediction of Glaucoma”
DOI:10.1145/3447548.3467195

<お問い合わせ先>

(英文)“PAMI: A Computational Module for Joint Estimation and Progression Prediction of Glaucoma”

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