ポイント
- 抽象化思考とは、多くの情報の中から本質的な情報を抜き出して組織することです。
- 本研究では、人間が未知の新しい規則を学習する時にどのように抽象化思考をしているのかを検証し、その脳活動をfMRIで測定しました。
- その結果、研究参加者の抽象化思考を用いる能力は、時間とともに向上しました。
- 特に、抽象化思考で問題を解決する際には、価値判断に関わる脳領域が優先的に使われていました。
- さらに、デコーディッドニューロフィードバック(DecNef)技術を用いて、抽象化された情報に対応する脳活動に人工的に価値を付加することで、抽象化思考の使用を促進させることに成功しました。
- 今回の成果は高次な脳機能に関する新たな知見を提供するものであり、新たな学習戦略やリハビリテーション戦略の考案、さらには新世代のAIの開発にもつながるものです。
株式会社国際電気通信基礎技術研究所(ATR)のAurelio Cortese、山本 明日翔、川人 光男、アルバータ大学のMaryam Hashemzadeh、ロンドン大学(UCL)のPradyumna Sepulveda、Benedetto De Martinoは、価値判断に関わる脳領域で抽象化思考が行われていることを実証しました。さらに、金銭的価値を期待した時の脳活動と、抽象化思考には因果関係があることを明らかにしました。また、デコーディッドニューロフィードバック(DecNef)技術を用いて、抽象化された情報に対応する脳活動に人工的に価値を付加することで、抽象化思考の使用を促進させることに成功しました。
抽象化思考は、複雑な問題を単純化する最も効率的な方法です。ディープラーニングの分野で最も影響力のある研究者の1人である、Yoshua Bengioが示唆したように、抽象化思考を行う能力は、新世代の柔軟な人工知能モデルを開発するための鍵となる可能性を秘めており、人工知能の新たな発展につながると期待されます。
本成果は、2021年8月3日(英国時間)に「eLife」に掲載される予定です。
本研究は、日本医療研究開発機構(AMED) 戦略的国際脳科学研究推進プログラムの「脳科学とAI技術に基づく精神神経疾患の診断と治療技術開発とその応用」課題(JP18dm0307008)(研究開発代表者 川人 光男)の支援を受けています。一部は科学技術振興機構(JST) ERATO「池谷脳-AI融合プロジェクト」(JPMJER1801)(研究総括 池谷 裕二)の一環として行われたものです。またMaryam Hashemzadehはチリ国立研究開発機構(ANID)・奨学金プログラムから、Benedetto De Martino准教授は、Welcome Trust(グラント番号:# 102612/A/13/Z)からの支援も部分的に受けています。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(710KB)
<論文タイトル>
- “Value signals guide abstraction during learning”
- DOI:10.7554/eLife.68943
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