慶應義塾大学,東京大学,科学技術振興機構(JST)

令和3年7月2日

慶應義塾大学
東京大学
科学技術振興機構(JST)

神経伝達物質を「見える化」するツールを開発

~分子量の小さい生理活性物質の可視化に新たな光~

慶應義塾大学 医学部 薬理学教室の塗谷 睦生 准教授、芦刈 洋祐 博士研究員(現在、京都大学 大学院工学研究科 博士研究員)、安井 正人 教授らを中心とする研究グループは、同理工学部 化学科の藤本 ゆかり 教授、東京大学 大学院工学系研究科の小関 泰之 教授らとの共同研究により、脳内の神経伝達物質ドーパミンを「見える化」するツールの開発と応用に成功しました。

ドーパミンは脳において神経細胞の間でやり取りされる神経伝達物質の1つで、運動・認知・報酬などさまざまな脳の機能を担っています。またドーパミンの伝達不調は、パーキンソン病を始めとするさまざまな病気の原因となっています。そのため、脳の健康と病気の理解、そして薬の開発などにおいては、ドーパミンが脳でどのように働いているのかを「見える化」することが大変重要です。

通常、医学・生命科学においては、「見える化」するために、蛍光色素や蛍光たんぱく質と呼ばれる蛍光を発する分子で標識する「蛍光標識」が用いられます。しかし、ドーパミンは非常に小さい分子で、蛍光色素の半分以下、蛍光たんぱく質の100分の1以下のサイズしかなく、これらで標識すると性質が大きく変わってしまい、本来の姿を捉えることができませんでした。そのため、ドーパミンの脳細胞、組織の中での挙動は明らかになっていませんでした。

今回、本研究グループは、ドーパミンよりずっと小さく、さらにその後さまざまな形で観察・検出できるアルキン(アセチレン系炭化水素)でドーパミンを標識した「アルキン標識ドーパミン」を開発しました。これを培養細胞、動物組織で試すことにより、ドーパミンの挙動を捉えることに成功しました。

本研究成果により、これまで明らかにされていなかったドーパミンの脳細胞・組織内での挙動を捉えることが可能となり、脳の健康と病気の理解を深める研究や薬の開発に新たな道を拓くことが期待されます。

本研究成果は、2021年7月1日(東部米国時間)に、アメリカ化学会(ACS)が出版する「Analytical Chemistry」のオンライン版に掲載されます。

本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 さきがけ「量子技術を適用した生命科学基盤の創出」(JPMJPR17G6)、CREST「量子状態の高度な制御に基づく革新的量子技術基盤の創出」(JPMJCR1872)、JSPS科研費JP16H01434、JP20H02881の支援によって行われました。

<プレスリリース資料>

<論文タイトル>

“Alkyne-Tagged Dopamines as Versatile Analogue Probes for Dopaminergic System Analysis”
DOI:10.1021/acs.analchem.0c05403

<お問い合わせ先>

(英文)“Alkyne-Tagged Dopamines as Versatile Analogue Probes for Dopaminergic System Analysis”

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