ポイント
- 核内ストレス体形成の足場となるHSATIIIノンコーディングRNA(IncRNA)が温度変化に応答してRNAメチル化修飾を受けることを発見。
- 核内ストレス体は、周囲に存在するメチル化関連たんぱく質を閉じ込める「スポンジ(molecular sponge)」として働き、他のmRNAのメチル化修飾を抑制し、その結果RNAスプライシングを抑制していた。
- HSATIIIの大半を占める単純な反復配列が、部分的にメチル化されることによって「スポンジ」と「るつぼ(reaction crucible)」という2つのスプライシング制御機構を両立させていた。
- 以上から、「核内ストレス体」が、高温ストレスから回復する過程で2つの異なるメカニズムを併用して遺伝子発現を調節していることが明らかになり、霊長類が熱ストレス応答機能を獲得した理由や疾患発症機構の解明への寄与に期待。
大阪大学 大学院生命機能研究科の二宮 賢介 特任講師(常勤)、廣瀬 哲郎 教授(大学院理学研究科 兼任)らの研究グループは、細胞が高温(熱ストレス)にさらされたときに核内で作られる構造体「核内ストレス体」が、高温ストレスから回復する過程で2つの異なるメカニズムを併用して遺伝子発現を調節していることを明らかにしました。
核内ストレス体は、霊長類の細胞に特有の構造体で、熱ストレスによって転写されるHSATIIIノンコーディングRNA(lncRNA)を足場にして作られます。これまでに、本研究グループは、核内ストレス体が制御たんぱく質のリン酸化反応の「るつぼ」として働き、RNAスプライシングを制御していることを明らかにしてきましたが、この核内ストレス体がさらなる新たな制御機能を持っていることが示唆されていました。
今回、本研究グループは、HSATIIIが核内でRNAのメチル化修飾を受けること、これに伴って、核内ストレス体が周囲からメチル化関連たんぱく質を吸い込んで閉じ込めてしまう「スポンジ」として働き、周囲のmRNAのメチル化修飾を抑えていることを発見しました。その結果、RNAのメチル化修飾によって起こるスプライシングが抑制されていることも分かりました。さらに、前述の「るつぼ」と今回明らかとなった「スポンジ」は、HSATIIIのRNA配列の大半を占めるGGAAUという同じ5塩基の反復配列が足場となり、そのメチル化の有無によってそれぞれ異なるたんぱく質を集めてくることで、異なる機能を発現することが明らかになりました。以上により、核内ストレス体は、共通のlncRNA骨格による「スポンジ」と「るつぼ」という2つの機構を通した温度依存的なRNAスプライシング制御を行う多機能構造体であることが明らかになりました。今後、霊長類特有の熱ストレス応答機構の解明や霊長類への進化の謎に迫ることが期待できます。
本研究成果は、欧州科学誌「The EMBO Journal」に、2021年6月29日(火)に公開されます。
本研究は、JST 戦略的創造研究推進事業 CREST(JPMJCR20E6)、JST 戦略的創造研究推進事業 ERATO(JPMJER2002)、日本学術振興会 科学研究費補助金、日本学術振興会 科学研究費助成事業 新学術領域研究「非ゲノム情報複製」「RNAタクソノミ」「先進ゲノム支援」の一環として行われました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(554KB)
<論文タイトル>
- “m6A-modification of HSATIII lncRNAs regulates temperature-dependent splicing”
- DOI:10.15252/embj.2021107976
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