金沢大学,科学技術振興機構(JST)

令和3年6月22日

金沢大学
科学技術振興機構(JST)

ベンゼンとハロゲンの結合を有機触媒の力で切断

金沢大学 医薬保健学域 薬学類の松木 佑樹さん、大西 汀紗さん、掛布 優樹さん、大学院医薬保健学総合研究科の竹本 俊佑さん、石井 卓也さんおよび医薬保健研究域 薬学系の長尾 一哲 助教、大宮 寛久 教授の研究グループは、環境負荷の少ない有機触媒を用いて、芳香族ハロゲン化合物のベンゼン環とハロゲン基の結合を切断し、芳香族ラジカルを発生させることのできる画期的な化学反応を開発しました。この化学反応は、医農薬、化学材料を精緻に組み上げる強力な有機合成技術となります。

ベンゼン環とハロゲン基が結合した芳香族ハロゲン化合物は、入手が容易で、かつ化学的に安定していることから、有機合成におけるベンゼン環の供給源として用いられています。例えば、有毒なスズ化合物を利用することで、芳香族ハロゲン化合物から、高い反応性を持つ芳香族ラジカルを発生させる化学反応は、ベンゼン環を供給する手法として古くから知られています。近年、芳香族ハロゲン化合物を金属触媒あるいは光触媒により1電子還元し、続いてベンゼン環とハロゲン基の結合を切断することで、芳香族ラジカルを発生させる化学反応が開発されています。しかし、報告されている手法は、金属塩や過剰の酸化剤や還元剤を必要としていることから、より環境負荷の少ない化学反応が求められています。

本研究グループは、チアゾリウム型含窒素複素環カルベン触媒を用いることで、芳香族ハロゲン化合物の一種である芳香族ヨウ素化合物から、光や金属塩を必要しない穏和な条件下において、ベンゼン環とハロゲン基の結合を切断し、芳香族ラジカルを発生させることに成功しました。本研究グループの独自技術である「電子反応を制御する含窒素複素環カルベン触媒」を発展させることで実現しました。この化学反応により発生させた芳香族ラジカルを活用することで、アルケン化合物あるいはアミド化合物を高い付加価値を持つ有機分子に変換することができました。

本研究成果は、環境負荷の少ない有機触媒を用いることで、芳香族ハロゲン化合物を芳香族ラジカルに導く化学反応を開発したものです。有機合成に汎用される芳香族ハロゲン化合物から芳香族ラジカルを簡単に発生させることできるため、医農薬、化学材料を精緻に組み上げる強力な技術となることが期待されます。

本研究成果は、2021年6月22日(英国夏時間)に「Nature Communications」のオンライン版に掲載される予定です。

本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 さきがけ「電子やイオン等の能動的制御と反応」(研究総括:関根 泰 早稲田大学 理工学術院 教授)研究領域における研究課題「電子制御型有機触媒の創製」(研究者:大宮 寛久)(JPMJPR19T2)、文部科学省 科学研究費補助金「新学術領域研究(分子合成オンデマンドを実現するハイブリッド触媒系の創製)」(JP17H06449)、日本学術振興会 科学研究費助成事業「基盤研究A」(JP21H04681)、金沢大学 先魁プロジェクト2020の支援を受けて実施されました。

<プレスリリース資料>

<論文タイトル>

“Aryl Radical-Mediated N-Heterocyclic Carbene Catalysis”
DOI:10.1038/s41467-021-24144-2

<お問い合わせ先>

(英文)“Aryl radical-mediated N-heterocyclic carbene catalysis”

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