東京大学,科学技術振興機構(JST)

令和3年6月2日

東京大学
科学技術振興機構(JST)

オートファジーが一次繊毛形成を促進するメカニズム

ポイント

繊毛は、細胞表面から突出した細胞小器官で原生動物からヒトに至るまで真核生物に広く保存された細胞小器官です。そのうち一次繊毛は非運動性で、細胞外の環境を感知して細胞内に伝えるアンテナとして働き、胚発生、細胞分化、臓器形成などにおいて重要です。一次繊毛が形成されるときには、細胞内のダイナミックな変化を伴いますが、その詳細な仕組みは解明されていませんでした。今回、東京大学 大学院医学系研究科の水島 昇 教授らの研究グループは、マクロオートファジー(以後、オートファジー)が一次繊毛の形成を促進していることを明らかにしました。

オートファジーとは、オートファゴソームが細胞質の一部を取り囲み、リソソーム(多種類の分解酵素を含む細胞小器官)と融合することで中身を分解する細胞内分解システムです。オートファジーによる分解は主に非選択的(ランダム)ですが、傷ついた細胞小器官、変性たんぱく質、細胞内の病原体などを選択的に分解することもできます。今回同グループは、オートファゴソームに結合するたんぱく質を網羅的に検索して、繊毛機能に関連することが示唆されていたNEK9を同定しました。さらに、NEK9は、一次繊毛形成の抑制因子であるMYH9と結合して、MYH9をオートファジー分解に導くアダプターとして機能することを見いだしました。NEK9がオートファゴソームに結合できないようにした細胞を作製したところ、MYH9は分解されず、一次繊毛の形成が顕著に抑制されました。また、同様の変異を導入したマウスでは、腎臓の近位尿細管細胞の一次繊毛形成が阻害され、細胞が腫大しました。以上のことから、NEK9を介したオートファジーによるMYH9の選択的分解は一次繊毛の形成に重要であると考えられました。

オートファジーによる繊毛形成制御は哺乳類などの陸上脊椎動物だけに見られるので、この機構が腎臓の陸上生活への適応に重要であった可能性が考えられます。また、本研究成果は、オートファジーの生理的意義や、繊毛形成の異常を伴う疾患の理解につながると考えられます。

本研究は、東京大学 大学院医学系研究科 機能生物学専攻 システムズ薬理学教室の上田 泰己 教授、大出 晃士 講師、量子科学技術研究開発機構 放射線医学総合研究所 生物研究推進室の塚本 智史 主幹研究員との共同研究として行われました。

本研究成果は、科学誌「Nature Communications」に(英国夏時間2021年6月2日)にオンライン掲載されます。

本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究(ERATO)「水島細胞内分解ダイナミクスプロジェクト」(研究総括:水島 昇)の一環で行われました。

<プレスリリース資料>

<論文タイトル>

“NEK9 regulates primary cilia formation by acting as a selective autophagy adaptor for MYH9/myosin IIA”
DOI:10.1038/s41467-021-23599-7

<お問い合わせ先>

(英文)“NEK9 regulates primary cilia formation by acting as a selective autophagy adaptor for MYH9/myosin IIA”

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