物質・材料研究機構(NIMS),産業技術総合研究所(AIST),科学技術振興機構(JST)

令和3年4月17日

物質・材料研究機構(NIMS)
産業技術総合研究所(AIST)
科学技術振興機構(JST)

半世紀以上熱電変換の最高性能を誇るBiTe系に匹敵する新規材料を開発

~希少元素を大幅削減して高性能化とモジュール化に成功 熱電変換普及への貢献に期待~

NIMSは、n型MgSb系材料にわずかな銅原子を添加することで、高性能な熱電材料に必要な熱伝導率低減と電荷移動度向上を両立させることに成功しました。さらに、同様に高性能化したp型材料と合わせて、産業技術総合研究所と共同で熱電モジュールを作製し、室温と320度の温度差において、半世紀以上にわたり最高性能の記録を保持し続けているBiTe系材料に匹敵する熱電変換効率7.3パーセントを実現しました。この技術は、材料性能から見積もられる理論効率は約11パーセントとさらなる高効率化も見込まれ、希少元素であるTeを主成分として含まないことから、IoTセンサーの自立電源やモバイル発電機など幅広い分野での応用が期待されます。

一次エネルギーの多くは熱として排出されており、特に320度以下の低温域が廃熱の約90パーセントを占めます。この廃熱を有効活用するため、熱を電気に変換する熱電材料の開発が世界中で進められています。熱電変換効率の向上には、熱伝導率を低く、電気伝導率を高くする必要があります。しかし電気伝導率が高いと熱伝導率も高くなるという相反する性質があり、低温域の熱電変換性能は、半世紀以上も前に見いだされたBiTe系を超える材料はいまだに開発されていません。一方で、BiTe系材料は主成分のTeが希少元素であることが、熱電発電の普及を妨げています。そこで、希少元素を極力用いずにBiTe系を代替できる高性能熱電材料の開発が強く求められています。

本研究グループはMgSb系材料に少量の銅原子を添加すると、2つの効果で熱電性能が向上することを発見しました。第1の効果は、原子間隙に挿入された少量の銅原子が、熱伝導をつかさどるフォノンの速度を低減し、熱伝導率を著しく低減できることです。これにより、利用熱の散逸を抑止し、高効率の熱電発電を実現できます。第2の効果は、粒界へ挿入された銅原子が電子の散乱を抑え、熱伝導率の低い多結晶体試料でありながら、単結晶材料に匹敵する高い電気伝導率を実現することです。これにより、ジュール発熱によるエネルギー損失を抑えることができます。この2つの効果により、熱電材料における電気伝導と熱伝導のトレードオフ問題を解決して、高い熱電効率を実現しました。

今回の成果は、希少元素をほとんど用いない熱電モジュールの実用化および普及に道を拓くものであり、大きな省エネ効果につながるだけでなく、Society 5.0を実現するために必要な無数のセンサー用自立電源向けの熱電モジュールの実用化にも大きな貢献が期待されます。さらに、今回見いだされた新規なフォノン散乱効果や粒界制御効果は、他の熱電材料の高性能化にも活用できる可能性があり、熱電材料の全般的な高性能化に大きく貢献することも期待されます。

本研究は、物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 熱エネルギー変換材料グループの森 孝雄 グループリーダーと、産業技術総合研究所 省エネルギー研究部門の李 哲虎 首席研究員らの研究グループによって行われました。

本研究成果は、「Joule」誌にて2021年4月16日(アメリカ東部時間)にオンライン掲載されます。

本研究は、科学技術振興機構(JST) 未来社会創造事業 大規模プロジェクト型 技術テーマ「センサ用独立電源として活用可能な革新的熱電変換技術」(研究開発代表者:森 孝雄)の支援を受け実施されました。

<プレスリリース資料>

<論文タイトル>

“Demonstration of Ultrahigh Thermoelectric Efficiency of ~7.3% in Mg3Sb2/MgAgSb Module for Low Temperature Energy Harvesting”
DOI:10.1016/j.joule.2021.03.017

<お問い合わせ先>

(英文)“Demonstration of ultrahigh thermoelectric efficiency of ∼7.3% in Mg3Sb2/MgAgSb module for low-temperature energy harvesting”

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