東京大学,自然科学研究機構 分子科学研究所,科学技術振興機構(JST)

令和3年2月11日

東京大学
自然科学研究機構 分子科学研究所
科学技術振興機構(JST)

テラヘルツパルスによって強誘電性電荷秩序状態を超高速に生成することに成功

~磁気的相互作用によって安定化する隠れた強誘電性を発見~

ポイント

光によって固体の電子相が高速に変化する現象、いわゆる「光誘起相転移」は、非平衡量子物理学という新しい学問分野の中心課題であり、近年盛んに研究されています。これまで報告されてきた光誘起相転移の多くは、光キャリアの生成をきっかけとして電荷秩序やスピン秩序が融解する現象、すなわち、秩序状態から無秩序状態への変化が引き起こされることによるものでした。一方、光励起によって逆に秩序状態を生成することは難しく、これまでほとんど実現されていませんでした。

東京大学 大学院新領域創成科学研究科の山川 大路 博士(研究当時 大学院生)、宮本 辰也 助教、貴田 徳明 准教授、岡本 博 教授(兼 産総研・東大先端オペランド計測技術 オープンイノベーションラボラトリ 有機デバイス分光チーム ラボチーム長)、分子科学研究所 協奏分子システム研究センターの須田 理行 助教(現 京都大学 大学院工学研究科 准教授)、山本 浩史 教授、東京大学 物性研究所の森 初果 教授、東京大学 大学院工学系研究科 物理工学専攻の宮川 和也 助教、鹿野田 一司 教授らの研究グループは、モット絶縁体である有機分子性結晶κ-(ET)Cu[N(CN)]Cl(ET=bis(ethylenedithio)tetrathiafulvalene)に高強度のテラヘルツパルスを照射することによって、一定時間安定に存在する、強誘電性の電荷秩序状態を生成することに成功しました。テラヘルツパルスの電場成分によってET分子の二量体内で電荷の偏りが生じ、その偏りが結晶全体でそろうことによって巨視的な分極が発生します。

一方、同様の結晶構造を持つκ-(ET)Cu(CN)では、同様な電荷秩序状態は安定化しませんでした。2つの物質における分子間反強磁性交換相互作用を比較した結果、κ-(ET)Cu[N(CN)]Clに特有の反強磁性交換相互作用が電荷秩序状態を安定化するのに重要な役割を果たしていることが分かりました。これは、電荷秩序とスピン配列の間にマルチフェロイック相互作用と呼ぶべき強い相関があることを示唆しています。

本研究で得られた知見は、モット絶縁体が持つ「隠れた強誘電性」の理解につながるものと期待されます。

本研究の成果は2021年2月11日付で、英国科学誌「Nature Communications」にオンライン掲載される予定です。

本研究は、JST 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)「計測技術と高度情報処理の融合によるインテリジェント計測・解析手法の開発と応用」(研究総括:雨宮 慶幸 高輝度光科学研究センター(JASRI) 理事長)における研究課題「強相関系における光・電場応答の時分割計測と非摂動型解析」(課題番号:JPMJCR1661、研究代表者:岡本 博 東京大学 大学院新領域創成科学研究科 教授、研究期間:平成28~令和3年度)、日本学術振興会 科学研究費助成事業(課題番号:JP16H04010,JP17K18746,JP18H01166,JP18H05225)、文部科学省 ナノテクノロジープラットフォーム事業、同 科学研究費助成事業 新学術領域研究(研究領域提案型)「ハイドロジェノミクス」の一環で実施されました。

<プレスリリース資料>

<論文タイトル>

“Terahertz-field-induced polar charge order in electronic-type dielectrics”
DOI:10.1038/s41467-021-20925-x

<お問い合わせ先>

(英文)“Terahertz-field-induced polar charge order in electronic-type dielectrics”

前に戻る