ポイント
- 細胞内のさまざまな現象を明らかにする上で有用な蛍光寿命画像を、焦点の走査なく、一括して取得可能な手法を開発した。
- 44,400個にも及ぶ「光のストップウォッチ」を2次元空間に並べて、蛍光寿命を同時測定することに成功した。
- イメージ内での同時計測性が常に担保されるので、生きた細胞の動態観察が必要なライフサイエンス研究への応用が期待される。
蛍光物質に瞬間的な光を照射すると、発生した蛍光は直ちには減衰せず、その蛍光物質特有の減衰時間(蛍光寿命)をもって減衰します。この蛍光寿命を観測し、試料をマッピングする手法が蛍光寿命顕微鏡です。蛍光寿命は、実験条件に依存しないので高い定量性が得られ、細胞内の蛍光分子の環境変化などを高感度に検出することができます。しかし、蛍光寿命顕微鏡は点計測に基づいているため、画像取得には焦点位置の機械的走査(スキャン)が必要となり、高速な画像取得が制限されていました。
徳島大学 ポストLEDフォトニクス研究所の水野 孝彦 元 特任助教、安井 武史 教授らと宇都宮大学 オプティクス教育研究センターの山本 裕紹 教授の研究グループは、上記の課題を解決するため、デュアル光コムを光源に用いた蛍光顕微鏡を開発しました。本研究では、光コムの「超離散マルチ光チャンネル性」という光周波数モード列が等間隔に並ぶ特徴に着目し、ひと組の光コム(デュアル光コム)による光の輪唱(光ビートと、光波長/空間/電気周波数の多次元変換を融合することにより、蛍光寿命と蛍光強度の顕微画像を焦点走査無く(スキャンレスで)高速に一括取得できる手法を開発しました。本手法により、細胞内での分子の広がりや動きをつぶさに測定することが初めて可能になり、生きた細胞の動態(ダイナミックス)の定量的観察が必要なライフサイエンス研究への応用が期待されます。
本研究成果は、2021年1月1日(米国東部標準時)にアメリカ科学振興協会(American Association for the Advancement of Science)の電子ジャーナル「Science Advances」で公開されます。
本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 ERATO「美濃島知的光シンセサイザプロジェクト」(JPMJER1304)、科学研究費 助成事業(19H00871、26246031)、内閣府 地方大学・地域産業創生交付金事業[徳島県「次世代“光”創出・応用による産業振興・若者雇用創出計画(次世代ひかりトクシマ)」]、中谷医工計測技術振興財団(1802003)からの支援を受けて行われました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(1.34MB)
<論文タイトル>
- “Full-field fluorescence-lifetime dual-comb microscopy using spectral mapping and frequency multiplexing of dual-optical-comb beats”
- DOI:10.1126/sciadv.abd2102
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