近年、細胞内には核小体のような膜のない構造体があることがわかってきました。膜のない構造体の多くは「液-液相分離」と言われ、その実態は油と水の分離に見られる原理によって作られる「液滴」です。この液滴は、試験管内ならさまざまなタンパク質によって作られることが示されている一方で、細胞の中で「どのように液滴が作られるのか?」「その液滴の変化が細胞の機能にどのように結びつくのか?」は不明でした。
情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所 井手 聖 助教、前島 一博 教授らの研究グループは、生きたヒト細胞の大きな液滴である核小体に着目し、その中に存在するリボソームRNA遺伝子(rDNA)と、その転写装置であるRNAポリメラーゼIの振る舞いを、超解像蛍光顕微鏡を駆使して分子レベルで詳しく観察することに成功しました。その結果、液滴である核小体において、rDNAの転写が停止することにより、新たな液滴が作られることがわかりました。重要なことに、ヒト遺伝性疾患の原因となる変異型RNAポリメラーゼIによっても、転写が停止して、同じような液滴が作られることがわかりました。
本研究により、RNAポリメラーゼIの変異が液滴の変化を起こし、リボソーム合成異常に起因するヒト遺伝性疾患を引き起こすことが明らかとなりました。本研究によって、今後、このような細胞の異常や関連疾患の理解が進むことが期待されます。また、生きた細胞内で分子の動きを追跡できる超解像蛍光顕微鏡が細胞内のさまざまな液滴を調べる上で有効であることがわかりました。
本研究は、国立遺伝学研究所 ゲノムダイナミクス研究室の井手 聖 助教、大地 弘子 研究支援員、今井 亮輔 元総研大生、前島 一博 教授の共同研究成果です。
本研究成果は、2020年10月15日(日本時間)に米国科学雑誌「Science Advances」に掲載されます。
本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業(CREST) (JPMJCR15G2)、文部科学省 科学研究費補助金・新学術領域研究「クロマチン潜在能」(JP19H05273)、科学研究費補助金(JP16H04746、JP15K18580、JP15H01361、JP16H04746)および武田科学振興財団の支援を受けて行われました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(525KB)
<論文タイトル>
- “Transcriptional suppression of ribosomal DNA with phase separation”
(相分離に伴うリボソームRNA遺伝子の転写抑制) - DOI:10.1126/sciadv.abb5953
<お問い合わせ先>
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ホームページ:http://maeshima-lab.sakura.ne.jp井手 聖(イデ サトル)
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