細菌と糸状菌はいずれも、自然界に広く存在する主要な微生物で、互いに作用して、それぞれの特徴的な機能を発揮していることが明らかとなってきています。また、菌糸ネットワークが、細菌の増殖と移動に重要であることも分かってきました。そこで本研究では、細菌と糸状菌のモデル生物であるBacillus subtilis(枯草菌)とAspergillus nidulansを共培養し、これらの相互作用を解析しました。
その結果、寒天培地上で、細菌が自身の鞭毛を使って糸状菌の菌糸上を秒速30マイクロメートルという速度で素早く移動する様子が観察されました。また、糸状菌の菌糸ネットワークの生長を利用して細菌がその生存空間を拡大している様子を、タイムラプス撮影により可視化しました。細菌は、菌糸を高速道路のように利用して、より速くより遠くへ移動することができます。一方、菌糸の先端まで移動した細菌から、糸状菌にビタミンB1(チアミン)が供給され、菌糸の生長を促進していることが分かりました。すなわち、細菌は菌糸の「高速道路」を移動し、糸状菌は「通行料」としてチアミンを受け取り、互いにメリットを得ています。このことは、空間的相互作用と代謝的相互作用の組み合わせにより、細菌と糸状菌が共同体として生存空間を拡大するという、これまで知られていなかった相利共生の仕組みを示しています。
細菌と糸状菌の相互作用を理解することは、これら微生物が関わるバイオマス分解、動物植物への感染、植物共生と植物生育促進、発酵食品の生産などの制御につながると考えられます。
本研究の成果は、2020年9月23日(米国東部時間)「Life Science Alliance」で公開されました。
本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究(ERATO)「野村集団微生物制御プロジェクト」の一環で行われました。
<プレスリリース資料>
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<論文タイトル>
- “Fungal mycelia and bacterial thiamine establish a mutualistic growth mechanism”
(糸状菌の菌糸と細菌のチアミンがもたらす相利共生的生長機構) - DOI:10.26508/lsa.202000878
<お問い合わせ先>
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<研究に関すること>
竹下 典男(タケシタ ノリオ)
筑波大学 生命環境系/微生物サステイナビリティ研究センター(MiCS) 准教授
JST ERATO 野村集団微生物制御プロジェクト ゲノム生化学グループ グループリーダー
〒305-8572 茨城県つくば市天王台1-1-1
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E-mail:takeshita.norio.gfu.tsukuba.ac.jp
URL:https://fungalcell.com尾花 望(オバナ ノゾム)
筑波大学 医学医療系/トランスボーダー医学研究センター/微生物サステイナビリティ研究センター(MiCS) 助教
JST ERATO 野村集団微生物制御プロジェクト 不均一性グループ グループリーダー
〒305-8575 茨城県つくば市天王台1-1-1
Tel:029-853-3213/5079
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科学技術振興機構 研究プロジェクト推進部
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