東京大学,豊橋技術科学大学,科学技術振興機構(JST)

令和2年7月21日

東京大学
豊橋技術科学大学
科学技術振興機構(JST)

格子状に並んだナノサイズの穴を持つ薄い膜が、らせんの光の波長を変える

~極短波長のそろった円偏光を簡単に作り出すことに成功~

光は電場と磁場の変化を伝える波の性質を持っていて、電場や磁場の振動の仕方によっていくつもの種類があります。円偏光は、電場の波が光の進行方向に対してらせんのように回転するタイプの光であり、電場が右回転の場合(右回り円偏光)と左回転の場合(左回り円偏光)とでは物質の性質によっては光の吸収が異なることを利用して、生体分子の構造対掌性(キラリティー)や、物質の磁性に関わる電子スピンの状態を知ることができます。特に真空紫外領域と呼ばれる200ナノメートル以下の短い波長を持った円偏光は、多くの生体分子の立体構造や物質の電子状態などを検出できる有用な光です。この光を、非常に短い発光時間を持つ超短パルス光として作り出し、かつ小さな点に集めることができれば、サブマイクロメートル領域で起こっている一瞬の現象を観測できる強力なツールとなりますが、これまではそのような光を簡便に発生させることは困難でした。

東京大学 大学院理学系研究科の小西 邦昭 助教、五神 真 教授(現総長)らは、人が目で見える光として感じる波長の円偏光を、真空紫外領域の短い波長の円偏光に直接変換できる物質を探索し、等しい間隔で並んだ正方形の格子の位置にナノサイズの穴を開けた薄い膜が利用できることを初めて発見しました。波長が変換された真空紫外の円偏光は、十分な強度で分光などの用途に利用できることも分かりました。

このようなナノ構造を持つ薄膜はフォトニック結晶と呼ばれ、光の伝わり方を制御するための研究が行われてきました。正方形の格子状に穴の開いたフォトニック結晶を、真空紫外領域への変換に使うという新しい発想は、真空紫外の円偏光を簡単に作り出すことを可能とし、医学、生命科学、分子化学、磁性材料などの材料科学といったさまざまな分野において、機能性分子や機能材料を発見するのに役立つ分析技術につながることが期待されます。

本研究成果は、2020年7月21日(米国東部夏時間)に「Optica」にオンライン掲載されます。

本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業さきがけ「量子技術を適用した生命科学基盤の創出」研究領域 研究課題名「真空紫外コヒーレント光を用いた円二色性生体分光技術の開発」(JPMJPR18G6)平成30年度採択(研究者:小西 邦昭)、日本学術振興会 科学研究費補助金基盤研究(B)(18H01147)、文部科学省光・量子飛躍フラッグシッププログラム(Q-LEAP)「先端レーザーイノベーション拠点」(JPMXS0118067246)、最先端の光の創成を目指したネットワーク研究拠点プログラム「先端光量子科学アライアンス」、センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム「コヒーレントフォトン技術によるイノベーション拠点」からの支援を受けて行われました。

<プレスリリース資料>

<論文タイトル>

“Circularly polarized vacuum ultraviolet coherent light generation using a square lattice photonic crystal nanomembrane”
DOI:10.1364/OPTICA.393816

<お問い合わせ先>

(英文)“Circularly polarized vacuum ultraviolet coherent light generation using a square lattice photonic crystal nanomembrane”

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