量子科学技術研究開発機構(QST),大阪大学,九州大学,科学技術振興機構(JST)

令和2年7月16日

量子科学技術研究開発機構(QST)
大阪大学
九州大学
科学技術振興機構(JST)

高強度のレーザー光による世界最大の電場発生を実証

~重イオン加速器の飛躍的な小型化に期待~

ポイント

国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構(理事長 平野 俊夫、以下「量研」)量子ビーム科学部門 関西光科学研究所(以下「関西研」)の西内 満美子 上席研究員(JST さきがけ研究者を兼任)、ドーバー・ニコラス 博士研究員、榊 泰直 上席研究員(九州大学 大学院総合理工学研究院 連携講座 教授を兼任)、国立大学法人 大阪大学(総長 西尾 章治郎) レーザー科学研究所の畑 昌育 特任研究員、岩田 夏弥 特任講師(常勤)、千徳 靖彦 教授、国立大学法人 九州大学(総長 久保 千春) 大学院総合理工学研究院の渡辺 幸信 教授らの研究グループは、量研関西研の超高強度レーザー装置「J-KAREN(ジェイ カレン)」を用い銀標的に照射することで、既存技術のイオン加速器の1千万倍に相当する1mあたり83兆Vの電場が発生することを実証し、銀イオンを瞬間的に光速の20パーセント(一秒間に地球を一周半できる速さ)に加速することに成功しました。

ピークパワーがペタワットに及ぶ超高強度のレーザー光を物質にあてることで、多価イオンを生成するのと同時に高エネルギーの加速を起こすレーザーイオン加速は、加速器の飛躍的な小型化につながる効率的な加速手法として注目されています。今回我々の研究チームは、J-KARENレーザーの世界最高品質の集光性能を上手く利用して、実験条件を最適化することにより、高強度のレーザー光による強烈な電場発生(世界最高値、雷雲の10億倍)、45価の銀イオン生成、及びこれまでで最大となる光速の20パーセントまでの加速を実証しました。さらに実験結果を詳細に解析した結果、高強度のレーザー光によるイオン生成や電場発生には、レーザーパルスの形状(パルスの立ち上がり方)が重要な役割を果たしていることを解明しました。この結果は、重元素の場合だけでなく低元素を対象としたレーザー加速に対しても有効であり、陽子線や低元素イオンの高エネルギー加速に向けた指標となることが分かりました。

量研では、今回得られた知見を活用して量子メス(次世代小型高性能重粒子線がん治療装置)の早期実現を目指します。また、今後高強度レーザー装置が発展していくと、より重い元素を高エネルギーに加速することができるようになり、宇宙の謎に迫るような宇宙物理の研究や短寿命核種の生成などの原子核物理の実験研究が実験室レベルの施設で可能になると期待されます。

本研究成果はAmerican Physical Societyが発刊するオープンアクセス速報誌「Physical Review Research」に2020年7月16日(日本時間)に掲載される予定です。

本研究の一部は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 さきがけ「極相対論的光電磁場における重元素低主量子数電子の電離機構の解明」(研究者:西内 満美子)、および未来社会創造事業「レーザー駆動による量子ビーム加速器の開発と実証」の支援のもと行われました。

<プレスリリース資料>

<論文タイトル>

“Dynamics of laser-driven heavy-ion acceleration clarified by ion charge states”
DOI:10.1103/PhysRevResearch.2.033081

<問い合わせ先>

(英文)“Dynamics of laser-driven heavy-ion acceleration clarified by ion charge states”

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