ポイント
- 蛍光標識なしに細胞の高解像形態画像に生体分子の分布を示せる光学顕微鏡を開発した。
- 赤外光で細胞内の分子に固有の振動を生じさせ、分子振動に伴う温度上昇による屈折率の変化を計測する原理で生体分子の分布を観察し、細胞形態と分子分布の情報を同時に取得することに成功した。
- 生きたままの細胞観察が必要となる再生医療や生物学研究への幅広い利用が期待される。
生命科学や医療分野では、細胞や細胞内小器官の形態や細胞構成分子の分布を複数の顕微鏡を用いて観察し、生命現象の解明や病気の診断が行われています。その中でも、生体分子を蛍光標識し、細胞内の動態を顕微鏡で観察する手法は広く利用されていますが、蛍光物質を結合させることで生体分子の生理活性を阻害したり、標識をつけた分子を細胞内に入れるために細胞の一部を壊したりしてしまう課題がありました。そこで生体分子を非標識(ラベルフリー)、つまり生きたままの状態で観察できる顕微鏡(ラベルフリー顕微鏡)の開発が求められていました。
これまでのラベルフリー顕微鏡には、細胞の形態を詳細に測る定量位相顕微鏡と、生体分子の分布を測る分子振動顕微鏡の大きく2種類があります。しかし、それらの顕微鏡では「細胞の形態」もしくは「分子の分布」のいずれか一方の計測しかできませんでした。東京大学 大学院理学系研究科の井手口 拓郎 准教授らは、可視光で高解像形態画像を計測する定量位相顕微鏡技術と、赤外光で分子振動を計測する分子振動分光技術を融合した新しいラベルフリー顕微鏡(赤外フォトサーマル定量位相顕微鏡)の開発に成功しました。この新しい顕微鏡技術は、細胞を破壊することなく、従来困難であった細胞の詳細な形態情報と分子分布情報の同時計測を実現できるため、医療や生物学における新たな細胞計測ツールとして利用されることが期待されます。
本研究成果は、2020年4月20日(米国東部夏時間)に「Optica」にオンライン掲載されます。
本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業さきがけ「量子技術を適用した生命科学基盤の創出」研究領域 研究課題「超高感度ラベルフリーイメージング法の開発」(JPMJPR17G2)平成29年度採択(研究者:井手口 拓郎)の支援を受けて行われました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(538KB)
<論文タイトル>
- “Label-free biochemical quantitative phase imaging with mid-infrared photothermal effect”
- DOI:10.1364/OPTICA.390186
<お問い合わせ先>
-
<研究に関すること>
井手口 拓郎(イデグチ タクロウ)
東京大学 大学院理学系研究科 附属フォトンサイエンス研究機構 准教授
Tel:03-5841-1026
E-mail:ideguchiipst.s.u-tokyo.ac.jp堀﨑 遼一(ホリサキ リョウイチ)
大阪大学 大学院情報科学研究科 情報数理学専攻 助教
E-mail:r.horisakiist.osaka-u.ac.jp -
<JST事業に関すること>
川口 哲(カワグチ テツ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 ライフイノベーショングループ
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
Tel:03-3512-3524
E-mail:prestojst.go.jp -
<報道担当>
東京大学 大学院理学系研究科・理学部 広報室
武田 加奈子(タケダ カナコ) 特任専門職員、飯野 雄一(イイノ ユウイチ) 教授・広報室長
Tel:03-5841-0654
E-mail:kouhou.sgs.mail.u-tokyo.ac.jp大阪大学 大学院情報科学研究科 庶務係
E-mail:jyouhou-syomuoffice.osaka-u.ac.jp
科学技術振興機構 広報課
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432
E-mail:jstkohojst.go.jp