ポイント
- カブウェ市の住民の血中鉛濃度は、鉛鉱山に近く、風下に住む人々ほど高いことが明らかに。
- 乳幼児・児童の5人に1人は、早急な治療が必要なほど血中鉛濃度が高いことが判明。
- 調査結果はザンビア政府と共有され、鉛中毒を和らげるための治療計画策定に役立てられる予定。
北海道大学 大学院獣医学研究院の石塚 真由美 教授、中山 翔太 助教、中田 北斗 学術研究員とザンビア大学 獣医学部のジョン・ヤベ 講師らの研究グループは、ザンビア共和国カブウェ市の住民(1,190名)の各家庭で親子の血液を採取し、血液中の鉛濃度をそれぞれ測定しました。測定結果から、カサンダ(Kasanda)という鉛鉱山の近くに位置する村落では、住民の血中鉛濃度が平均45.7µg/dLと他の村落よりも高いことが分かりました。他方で、鉱山から30kmほど離れたハムドゥドゥ(Hamududu)という村落では、血中鉛濃度が平均3.3µg/dLと低い値でした。さまざまな地域を調べた結果から、鉛鉱山の近い村落に住む人々ほど、体内により多くの鉛を含んでいることが分かりました。また、鉛鉱山の風下に住む人々は、風上に住む人々に比べて血中鉛濃度が高くなっており、鉛鉱山の風上・風下のどちらかに住むかによっても血中鉛濃度が変化することが分かりました。
さらに、子どもと大人の血中鉛濃度を比べると、子どもの方がより高い値を示していました。特に、乳幼児・児童(計562人)の5人に1人の血中鉛濃度は45.0µg/dL以上となっており、早急な治療が必要なほど血中鉛濃度が高くなっていることが判明しました。
今後、これらの調査結果はザンビア政府と共有され、鉛中毒注)を和らげるための治療計画を作成する際の重要な情報として役立てられる予定です。
本研究成果は、近日中に英国科学雑誌「Chemosphere」に近日中に掲載される予定です。
本研究は、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)と独立行政法人 国際協力機構(JICA)の連携事業である地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)「ザンビアにおける鉛汚染のメカニズムの解明と健康・経済リスク評価手法及び予防・修復技術の開発」(研究代表者:石塚 真由美)の支援を受けて行われました。
<背景>
ザンビア共和国のカブウェ市は20世紀に鉱山街として発展しました。現在鉱山は閉鎖されていますが、今も鉱山の影響による住民の鉛中毒が深刻な問題となっています。
これまでの研究では、鉛中毒によって幼少期の子どもの神経が損傷し、痙攣や昏睡状態といった深刻な症状を生じることが分かっています。また、大人にも血圧上昇や生殖器の異常といったさまざまな健康被害が生じています。
そこで、研究グループはザンビア大学と国際共同研究を行い、カブウェ市の住民の各家庭で親子の血液を採取し、血液中の鉛濃度をそれぞれ測定しました。これによって、住民の体内に含まれる鉛の量を明らかにし、早急な治療が必要な住民がどの程度いるのかを明らかにしました。
<研究内容>
研究グループは、2017年7月〜8月にカブウェ市の住民1,190名から血液を採取しました。住民の内訳は、生後3ヵ月~3歳の乳幼児(291名)、4歳~9歳の児童(271名)、子ども達の母親(412名)と父親(216名)で、複数の村落を対象として各家庭で親子の血液中の鉛濃度を測定しました。
住民の血液採取は、カブウェ市内にある13ヵ所の医療施設にて行いました。また血中鉛濃度の測定には、時間や費用が比較的かからないLeadCare Ⅱという測定機材を使用しました。
測定結果より、カサンダ(Kasanda)という鉛鉱山の近くに位置する村落では、住民の血中鉛濃度が平均45.7µg/dLと他の村落よりも高くなっていました。しかし、鉱山から30kmほど離れたハムドゥドゥ(Hamududu)という村落では血中鉛濃度が平均3.3µg/dLと低い値でした。
このようにさまざまな地域を調べた結果から、鉛鉱山に近い村落に住む人々ほど、体内により多くの鉛を含んでいることが分かりました。
さらに、鉛鉱山の風下に住む人々は、風上に住む人々に比べて血中鉛濃度が高く、鉛鉱山の風上・風下のどちらかに住むかによっても血中鉛濃度が変化することが分かりました。
また、子どもと大人の血中鉛濃度を比べると、子どもの方がより高い値を示していました。特に、乳幼児・児童(計562人)の5人に1人の血中鉛濃度は45.0µg/dL以上となっており、早急な治療が必要なほど血中鉛濃度が高くなっていました。しかしながら、大人の血中鉛濃度も決して低い値といえず、健康被害が生じる可能性が十分にあることが分かりました。
<今後の期待>
本研究の調査結果から、カブウェ市の多くの住民の血中鉛濃度が明らかになり、特に乳幼児・児童の鉛汚染が深刻であることが分かりました。これら調査結果はザンビア政府と共有され、鉛中毒を和らげるための治療計画の作成に役立てられます。
<参考図>
<用語解説>
- 注)鉛中毒
- 鉛の摂取を原因とする中毒のこと。重金属中毒の一種に分類される。鉛中毒の典型的な症状として、頭痛、感覚の消失、脱力、口の中の金属味、歩行協調障害、食欲減退、嘔吐、便秘、けいれん性の腹痛、骨や関節の痛み、高血圧、貧血などがある。
<論文タイトル>
“Current Trends of Blood Lead Levels, Distribution Patterns and Exposure Variations among Household Members in Kabwe, Zambia”
(ザンビア共和国カブウェ市の住民の血中鉛濃度)
著者名 | ジョン・ヤベ、中山翔太、中田北斗、豊巻治也、ヤレド・ヨハネス、カンポウェ・ムザンド、アンドリュー・カタバ、ゴールデン・ジャンボ、樋渡雅人、成田大樹、山田大地、ピーター・ハンゴマ、ノシク・シピラニャンベ・ムニンダ、ティザ・ムフネ、池中良徳、ケネディ・チョンゴ、石塚真由美 |
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DOI | 10.1016/j.chemosphere.2019.125412 |
<関連論文>
タイトル | “Factors associated with lead (Pb) exposure on dogs around a Pb mining area, Kabwe, Zambia” (ザンビア共和国カブウェ市の鉛鉱床近郊で飼育されている犬の鉛曝露の分析) |
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DOI | 10.1016/j.chemosphere.2020.125884 |
<お問い合わせ先>
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<研究内容に関すること>
中山 翔太(ナカヤマ ショウタ)
北海道大学 大学院獣医学研究院 助教
Tel:011-706-5105
E-mail:shouta-nakayamavetmed.hokudai.ac.jp
プロジェクトURL http://satreps-kampai.vetmed.hokudai.ac.jp/
研究室URL http://tox.vetmed.hokudai.ac.jp/石塚 真由美(イシヅカ マユミ)
北海道大学 大学院獣医学研究院 教授
Tel:011-706-6949
E-mail:ishizumvetmed.hokudai.ac.jp -
<JST事業に関すること>
科学技術振興機構 国際部 SATREPSグループ
Tel:03-5214-8085
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<JICA事業に関すること>
国際協力機構(JICA) 産業開発・公共政策部 資源・エネルギーグループ
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E-mail:ilgnejica.go.jp -
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