福島大学,筑波大学,科学技術振興機構(JST)

令和2年1月16日

福島大学
筑波大学
科学技術振興機構(JST)

チェルノブイリ原発周辺の森林火災跡地では地表流が発生しやすくなり
放射性物質を含む土砂移動(再拡散)が起こっていることが明らかになった

ポイント

本研究は、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)と独立行政法人 国際協力機構(JICA)の連携事業である地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)「チェルノブイリ災害後の環境管理支援技術の確立」(研究代表者:難波 謙二)の支援を受けて行ったものである。

<研究の背景>

1986年、ウクライナのチェルノブイリで原発事故が発生した。原発事故の後、原発中心地から半径30km圏内が規制区域に指定され、現在も人々の立ち入りが制限されている。この規制区域の森林地には、原発事故によって大気中に放出された放射性セシウムをはじめとする放射性物質が蓄積しており、森林火災や火災後の土砂流出によってそれら放射性物質が再び周囲へ拡散することが懸念されている。

そこで、福島大学・筑波大学の研究メンバーはウクライナの研究機関(ウクライナ水文気象学研究所やチェルノブイリ生態センター)との国際共同研究プロジェクトの中で、規制区域内で発生した森林火災の跡地にて地表流注)が発生した場合にどれくらいの量の放射性物質が流出するかを明らかにすることとした。

<研究内容>

本研究では、2016年にチェルノブイリ原発中心地から約2km離れた地点で発生した大規模森林火災の跡地を調査対象地とした(図1)。「森林火災の跡地内」と「火災の影響がなかった周辺の森林地」のそれぞれに調査区を設置し、地表流によって流出する放射性物質の量を比較した。その結果、森林火災跡地における地表流の流量は、火災の影響がなかった森林地と比べて約2.7倍も多いことが分かった。さらに、地表流に含まれる放射性物質の流束(単位時間また単位面積あたりに流れる量)も極端に大きくなっていることが明らかになった。また、それら放射性物質は地表流の水中に溶けた状態ではなく、水中に浮遊する微細な土壌粒子などに吸着した状態で移動する傾向にあることが分かった。以上の結果から、森林火災跡地から放射性物質が拡散することを防ぐには、地表流による土砂流出を抑えることが有効だと考えられた。

さらに、火災の影響がなかった森林地では、地表流に含まれる放射性物質量が原発事故直後(1987年)に測定された値よりも低下していることが分かった。これは、森林地の地表面に蓄積していた放射性物質が地下へ浸透したため、地表流に含まれる放射性物質が減少していたためと考えられる。

<今後の展開>

2016年の森林火災は周辺河川から離れた場所で発生したため、地表流に含まれる放射性物質が直接河川へ流入することはなかったと考えられる。しかし、河川周辺にて森林火災が発生する可能性もある。今後は、ウクライナの研究機関と共同し地表流によって放射性物質が河川に流入した場合の影響評価や対策に発展させていく予定である。本プロジェクトでは今後も地道な観測事実を積み重ねると同時に、モデルなどによる河川への影響評価や広域展開を目指す。

<参考図>

<用語解説>

注)地表流
土壌には降雨を吸収する能力(浸透能)がある。しかし、浸透能を上回る雨が降ると、土壌に浸透しきらなかった雨水が地表に流れることになる。これを地表流と呼ぶ。

<論文タイトル>

“Impact of wildfire on 137Cs and 90Sr wash-off in heavily contaminated forests in the Chernobyl exclusion zone”
著者:Igarashi Y, Onda Y, Wakiyama Y, Konoplev A, Zheleznyak M, Lisovyi H, Laptev G, Damiyanovich V, Samoilov D, Nanba K, Kirieiev S
DOI:10.1016/j.envpol.2019.113764

<お問い合わせ先>

(英文)“Impact of wildfire on 137Cs and 90Sr wash-off in heavily contaminated forests in the Chernobyl exclusion zone”

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