科学技術振興機構(JST),電気通信大学,ネオアーク株式会社

令和元年11月6日

科学技術振興機構(JST)
電気通信大学
ネオアーク株式会社

デュアルコム分光法を利用した磁気光学効果測定装置を開発

~偏光・分光測定や材料開発の新ツールの実用化に大きく前進~

ポイント

JST 戦略的創造研究推進事業において、ERATO 美濃島知的光シンセサイザプロジェクトの電気通信大学の美濃島 薫 教授とネオアーク株式会社の波多野 智 取締役らは、デュアルコム分光法を利用することにより、磁気光学効果注1)測定装置の性能を従来に比べて大幅に向上させることに成功しました。

デュアルコム分光法とは、精密に制御された超短パルスレーザーである光周波数コム(光コム)を2つ使う新しい分光法で、従来のフーリエ分光法注2)に比べ、分解能、感度、測定時間などの点で非常に優れています。デュアルコム分光法は、主に気体の分光分析に利用されていますが、プロジェクトはデュアルコム分光法による固体物性評価技術注3)の開発に世界で初めて成功し、さまざまな物性測定の原理実証を行ってきました。

その成果を実用化するための第一歩として、磁性材料の特性評価に必要な磁気光学効果測定装置の開発を進めてきました。そのプロトタイプ(原型機)の光学系や信号検出系などの完成度を高め、従来の測定方法を大幅に上回る測定性能を実現しました。主な性能としては、磁気光学効果測定分解能0.01度、波長分解能0.01ナノメートル、各波長成分の一括測定による高速測定を達成し、実用化に向けて大きく前進しました。測定システムは卓上型で、測定装置本体、デュアルコム光源、コントローラーから構成されており、発生磁場は最大で±10キロエルステッドです。さらに、上述の固体物性評価技術をもとに、固体の複素屈折率注4)を測定する装置の試作機を開発しました。固体材料を通過した光の強度比だけでなく、位相差も測定できることが大きな特長です。

磁気光学効果測定装置のプロトタイプと、複素屈折率測定装置の試作機は、精密な偏光・分光測定や材料開発などの新ツールとして活用されることが期待され、近い将来の製品化を目指して開発を進めていきます。

これらの装置は、2019年11月12日から14日まで科学技術館(東京都千代田区)で開催される「光とレーザーの科学技術フェア2019」にて展示される予定です。

本成果は、以下の事業・研究プロジェクトによって得られました。

戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究(ERATO)

「美濃島知的光シンセサイザプロジェクト」
(グラント番号:JPMJER1304)
美濃島 薫(電気通信大学 大学院情報理工学研究科 教授)
2013年10月~2019年3月

<研究の背景と経緯>

光周波数コム(光コム)は、超短パルス光が一定の時間間隔で繰り返し発せられるモード同期レーザー注5)を精密制御して得られる光パルス列であり、その光の周波数ごとの強度分布(スペクトル)は、くし(Comb:コム)のように多数の鋭いくし歯から構成されています。光コムは、超精密、高分解能、広ダイナミックレンジ注6)、超高速などの特長があり、周波数標準、高精度分光、天文観測、絶対距離測定などのさまざまな分野で応用が拡大しています。

ERATO 美濃島知的光シンセサイザプロジェクトでは、この光コムを基盤技術として、「知的光シンセサイザの開発」と「革新的応用の開拓」に取り組んできました。「知的光シンセサイザの開発」では、コム光源と制御技術の高度化、光コムの利用技術の開発を中心に研究を進めました。また「革新的応用の開拓」では、超精密分光計測、瞬時3次元イメージング、超精密距離計測、センシングなどの分野で、光コムを用いたさまざまな新しい応用技術を具現化してきました。

その代表的な成果の1つとして、「デュアルコム分光法を用いた固体物性研究への応用」が挙げられます。デュアルコム分光法は主に気体の分光分析に利用されていますが、それを固体の物性評価に適用したのは世界で初めてです。この成果を実用化するための第一歩として、磁性材料の特性評価に必要な磁気光学効果測定用の装置開発に取り組みました。

デュアルコム分光法は、わずかに繰り返し周波数(1秒間当たりのパルス生成回数)が異なる2つの光コムを用いた分光法で、従来のフーリエ分光法に比べて、測定時に光路の長さを変える機構が不要であり、測定時間や感度および分解能などの点で非常に優れています。図1において、第1の光コム(シグナルコム)を測定試料に照射することで、その材料特性を記録し、それを第2の光コム(ローカルコム)と重ね合わせて、その干渉光の強度波形であるインターフェログラムを取得します。このインターフェログラムをフーリエ変換注7)することで、2つの光コムによるマルチヘテロダインビート注8)を、RF周波数(無線周波数)領域に得ることができます。このマルチヘテロダインビートから、測定試料の分光特性などが得られます。

<研究の内容>

ERATO 美濃島知的光シンセサイザプロジェクトにおいて電気通信大学が開発した偏光デュアルコム分光技術や固体物性評価技術と、ネオアーク株式会社が保有する磁気特性測定技術やコム光源技術を融合させることにより、デュアルコム分光法を用いた磁気光学効果測定装置を開発しました。

図2に、磁気光学効果(ここではファラデー効果注1))測定装置のブロック図を示します。デュアルコム光源には、位相同期した2台の光コム(中心波長1560ナノメートル)を用いました。一方の光コム(シグナルコム)は、まずビームスプリッター(光束を2つに分割する光学素子)により、測定光路と参照光路に分けられます。測定試料は測定光路上に設置し、電磁石により外部磁場を印加できるようになっています。参照光路は、位相情報を取得するための基準信号を得るために使用します。もう一方の光コム(ローカルコム)は、縦偏光と横偏光の振幅が同じになるように調整した後、ビームスプリッターにより、測定試料を透過したシグナルコムと重ね合わせます。その後、ウォラストンプリズム(入射光を直交する2つの直線偏光に分離するプリズム)によって垂直方向と水平方向の偏光に分離し、それぞれ受光器で検出してインターフェログラムを同時に取得します。次に、フーリエ変換によって、垂直方向と水平方向のインターフェログラムの振幅情報と、参照信号を基準とした位相差情報から、シグナルコムの偏光状態を求めます。測定試料に印加する外部磁場を変えながらインターフェログラムを取得し、測定試料の磁気光学効果(ファラデー効果)の外部磁場依存性を調べることができます。

図3は、磁性材料のファラデー回転角注1)の外部磁場依存性を調べた結果です。測定試料には、軟磁性、硬磁性の特性を持つ2種類の希土類鉄ガーネット(RFe12)を用いました。図の横軸は外部磁場、縦軸はファラデー回転角です。軟磁性材料、硬磁性材料それぞれについて、磁場を上げていった時と下げていった時の特有のヒステリシス注9)曲線が明瞭に現れていることが確認できました。

図4は、開発したデュアルコム磁気光学効果測定装置のプロトタイプの外観写真です。測定装置本体は、幅260ミリメートル、奥行き360ミリメートル、高さ400ミリメートル、質量35キログラムで、発生磁場は最大で±10キロエルステッドです。デュアルコム光源は、幅470ミリメートル、奥行き600ミリメートル、高さ180ミリメートル、質量12キログラムで、中心波長1560ナノメートル、繰り返し周波数80メガヘルツ、繰り返し周波数差約142ヘルツです。プロトタイプは、光学系や信号検出系などを改良して装置としての完成度を高め、従来の測定方法(回転検光子法注10)など)を大幅に上回る測定性能を実現しました。主な性能としては、磁気光学効果測定分解能0.01度、波長分解能0.01ナノメートル、各波長成分の一括測定による高速測定を達成しました。なお、ネオアーク株式会社の従来製品では、磁気光学効果測定分解能は0.02度、波長分解能は10ナノメートル、また波長を変えながら測定しなければならないため高速測定が困難でした。

さらに、美濃島教授らが世界で初めて開発した、デュアルコム分光法による固体物性評価技術をもとに、固体の複素屈折率を測定する装置の試作機を開発しました。基本的な構成は同じで、試料を測定光路に入れると、シグナルコムの振幅(光強度)が減少し、位相遅れが生じます。取得したインターフェログラムをフーリエ変換して試料の複素透過率注11)スペクトルを求め、さらに電磁波解析を行うことで試料の複素屈折率スペクトルを得られます。図5に、試作機の外観写真を示します。本体は、幅400ミリメートル、奥行き300ミリメートル、高さ350ミリメートル、質量15キログラムで、これにデュアルコム光源を接続して使用します。

<今後の展開>

本研究では、ERATO 美濃島知的光シンセサイザプロジェクトの代表的な成果の1つである「デュアルコム分光法を用いた固体物性研究への応用」の実用化を目指して、その第一歩としてデュアルコム磁気光学効果測定装置のプロトタイプの完成度を高め、従来の測定方法を大幅に上回る性能を実現しました。さらにデュアルコム複素屈折率測定装置の試作機を開発しました。

これらのプロトタイプと試作機は、2019年11月12日(火)から14日(木)まで科学技術館(東京都千代田区)で開催される「光とレーザーの科学技術フェア2019」(主催:オプトロニクス社)のネオアーク株式会社ブースにて展示し、一般に公開する予定です。

今後は、ユーザーニーズに合わせて、広帯域化、高速化、機能の拡大、測定対象の拡大などを行って、近い将来の製品化を目指します。デュアルコム分光法を利用した測定装置は、超精密、超高速の偏光・分光測定のみならず、さまざまな新しい材料開発にも強力なツールとして活用が期待されます。

<参考図>

<用語解説>

注1)磁気光学効果、ファラデー効果、ファラデー回転角
物質に磁場をかけて光を照射した時、光の偏光状態が変化する現象。透過光の偏光状態変化をファラデー効果、反射光の偏光状態変化を磁気カー効果という。また、偏光面の回転角度を、それぞれファラデー回転角、カー回転角という。
注2)フーリエ分光法
2光束干渉計を用いて得られた光の干渉信号をフーリエ変換して分光分析する方法。
注3)デュアルコム分光法による固体物性評価技術

美濃島教授らは、従来は主にガスの組成分析に利用されていたデュアルコム分光法を、固体材料の複素屈折率スペクトルの解析といった物性評価にも利用できることを世界で初めて実証した。

A. Asahara, A. Nishiyama, S. Yoshida, K. Kondo, Y. Nakajima, and K. Minoshima, “Dual-comb spectroscopy for rapid characterization of complex optical properties of solids,” Optics Letters 41, 4971–4974 (2016).

注4)複素屈折率
物質の屈折率をn、吸収を表す消光係数をkとした時に、n-ikを複素屈折率という。波動を指数関数で表す時に、この複素屈折率を用いると非常に便利である。
注5)モード同期レーザー
レーザー共振器内において多数の発振モードの位相がそろっている状態をモード同期状態といい、その状態から周期的な間隔で超短パルス光を放出するレーザーのこと。
注6)ダイナミックレンジ
識別または再現することが可能な信号特性の最大値と最小値の比。範囲と分解能の比。
注7)フーリエ変換
ある関数を別の周期関数に分解して表す時に使う手法で、ここでは時間領域のデータを周波数領域のデータに変換するのに利用される。
注8)マルチヘテロダインビート
周波数がわずかに異なる複数の波を重ね合わせると、その周波数差に等しいうなり(ビート)が観測される。このビートから情報を測定する手法をマルチヘテロダイン法といい、このビートをマルチヘテロダインビートという。
注9)ヒステリシス
物質にある力を加えた場合、力が増加する時と減少する時とで、同じ力に対する物質の特性値が異なる現象。履歴現象ともいう。
注10)回転検光子法
偏光解析において、偏光子を固定し検光子を回転させて、その光強度依存性から透過光または反射光の偏光状態を求める方法。
注11)複素透過率
光(電磁波)が物質を透過した時の強度変化の割合を透過率といい、位相の変化まで含めて複素数として表したものを複素透過率という。

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