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平成24年4月26日

科学技術振興機構(JST)
Tel:03-5214-8404(広報課)

株式会社日立ハイテクノロジーズ
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株式会社ナナオ
Tel:076-277-6795(企画部 販売促進課)

リアルタイムに裸眼で3D観察できる電子顕微鏡の開発に成功
—ミクロの世界を実感する新時代の顕微鏡—

JST 研究成果展開事業 先端計測分析技術・機器開発プログラムの一環として、株式会社日立ハイテクノロジーズの伊東 祐博 先端解析システム設計部長、株式会社ナナオの伊藤 広 映像商品開発部 開発マネージャー、新潟大学 大学院医歯学研究科の牛木 辰男 教授、静岡大学 工学部の岩田 太 教授らは、リアルタイムで3D観察が可能な走査電子顕微鏡(SEM)注1)と、裸眼に対応した高解像度の3Dモニターを開発しました。

SEMでは、細く絞った電子線を観察対象に照射しながら2次元的に走査することで、表面の形状を立体的に観察することができます。そのため、観察物の立体構造を解析するツールとして、医学・生物学から無機材料分野まで、さまざまな分野で広く活用されています。試料をSEMで立体的に観察するためには、従来、右目で見たときと左目で見たときに相当する静止画像(視差画像注2))を、試料台を傾けて異なる角度からそれぞれ取得してから合成し、赤青メガネなどをかけて観察する必要があります。しかしこの方法では、視差画像の取得や調整に時間がかかるため、リアルタイムに試料のSEM像を裸眼で3D観察することができませんでした。

今回、開発チームは、試料に照射する電子線の角度を切り替えながら高速で走査する技術を開発し、瞬時に左右の視差画像を取得することに成功しました。また、裸眼に対応した高解像度の立体表示は、Directional Backlight(指向性光源)方式注3)により実現しました。Directional Backlight方式は、視差画像を同じ画素から時間差で表示するため、従来技術に比べて奥行き方向の再現性に優れた3D観察が可能です。

これらの成果によって、裸眼でリアルタイムに高解像度なSEM像の3D観察が可能となることから、観察物の構造解析だけでなく、マニピュレーターを用いた微小解剖、無機材料の電気特性の取得など、さまざまな分野への応用が期待できます。

本開発成果は、株式会社日立ハイテクノロジーズ社製SEMのオプション機能として、平成24年度に製品発売を予定しています。

本開発成果は、以下の事業・開発課題によって得られました。

事業名 研究成果展開事業 先端計測分析技術・機器開発プログラム/プロトタイプ
実証・実用化タイプ
開発課題名 「リアルタイムステレオSEMの開発」
チームリーダー 伊東 祐博(株式会社日立ハイテクノロジーズ 先端解析システム設計部 部長)
開発期間 平成21~23年度
担当開発総括 尾形 仁士(三菱電機エンジニアリング株式会社 相談役)

JSTはこのプログラムのプロトタイプ実証・実用化タイプで、プロトタイプ機の性能の実証並びに高度化・最適化、あるいは汎用化するための応用開発を行い、実用化可能な段階まで仕上げることを目的としています。

<開発の背景と経緯>

走査電子顕微鏡(SEM)は、数~数十ナノメートル(ナノは10億分の1)の分解能で試料の表面形状を観察できることから、医学生物学分野から無機材料分野までの広い分野で立体構造を解析する装置として活用されています。観察対象の表面の凹凸が詳しく分かれば、その立体構造を知るための重要な情報になります。しかし、一般のSEMで得られる画像(SEM画像)は、一方向から観察した画像であるため、片眼で見たとき(単眼視)のように平面的な画像になってしまいます。立体的なSEM画像を得るためには、観察物を搭載した試料ステージを傾斜して左右の視差画像を取得して合成し、赤青メガネなどを用いて観察する必要がありました。そのため、リアルタイムの3D観察はできませんでした。

今回、株式会社日立ハイテクノロジーズの伊東チームリーダーと株式会社ナナオの伊藤開発マネージャー、新潟大学の牛木教授、静岡大学の岩田教授らは、リアルタイムに3D観察が可能なSEM(リアルタイムステレオSEM)と、裸眼に対応した高解像度の3Dモニターを開発しました。これにより、裸眼でリアルタイムに高解像度なSEM像の3D観察が可能となることから、観察物の構造解析だけでなく、マニピュレーターを用いた微小解剖、無機材料の電気特性の取得など、さまざまな分野への応用が期待できます。

<開発の内容>

本開発では、「リアルタイムステレオSEM」と、「裸眼対応高解像度3Dモニター」の開発を行いました(図1)。

リアルタイムステレオSEMは、電磁レンズの収束作用により電子線を傾斜させます。電磁レンズの収束作用による電子線傾斜では、電子線傾斜に伴って発生する収差により、分解能が低下する課題があります。そこで、分解能の低下を抑えるため、専用の電子光学系と電子線の走査制御技術を開発しており、今回これらの技術の一部を活用しています。

また、電子線の傾斜方向の制御は、専用の電磁コイルを用いて1ライン単位、または1フレーム単位で左傾斜走査、標準走査、右傾斜走査のように切り替えながら試料上を走査します(以下、左傾斜走査時の画像を左視差画像、右傾斜走査時の画像を右視差画像、標準走査時の画像を通常SEM画像とよぶ)。これにより、走査速度は33ms/フレームの高速スキャンに対応し、リアルタイムの3D観察が可能となりました。特に左右の視差画像は、レンズの収束作用を利用しているため、通常SEM画像とフォーカスや非点収差注4)が異なりますが、1ライン/1フレーム単位でのフォーカスや非点収差の調整に対応したことも本装置の特長です。

取得した左右の視差画像は、今回開発した専用ソフトによりデータ処理することで、裸眼対応高解像度3Dモニターに対応したデュアルインプット方式注5)の他、一般的な3Dモニターに対応したサイドバイサイド方式注6)アナグリフ方式注7)の出力が可能となっています。

また、3D観察専用のグラフィカル・ユーザー・インターフェイス(GUI)も開発しました(図2)。これにより、左右の視差画像と通常SEM画像、および左右の視差画像を合成したアナグリフ画像(図3)の4画面同時表示を可能にしました。これらの画像を同時表示することで、通常SEM画像と比較しながら左右の視差画像の焦点や非点収差の調整を可能にしたため、使い易くなっています。

裸眼対応高解像度3Dモニター(DuraVision FDF2301-3D)は、Directional Backlight(指向性光源)方式により高精細表示を可能にします。卓上型の裸眼3D液晶モニターでは、大画面23.0型でフルHD(1920×1080ドット)の高精細表示が可能な世界初の製品で、2011年度に株式会社ナナオが販売を開始しています(図4)。一般的な裸眼に対応した3Dモニターの表示方式は、液晶パネルの画素を左右の視差画像に割り振るため、水平方向の解像度が半分になりますが、Directional Backlight方式は、左右の視差画像を同じ画素から時間差で表示することで、3D画像を映し出します。つまり、左右の視差画像ごとに液晶パネルの画素を割り振る必要がないため、液晶パネルの持つフルHDの高解像度をそのまま生かした、奥行き分解能に優れるリアルな3D画像を観察することができます。また、観察者の左右それぞれの目に届く視差画像の方向を、LEDを採用した液晶モニターの光源で決定しているため、他の裸眼3D方式で問題となる、バリアやレンズによるモワレや縞目の発生がありません。また原理上、左右の視差画像が入れ替わって見える「逆視」となる視位置がなく、画面周辺部まで高精細な3D画像を安定して観察できます。

<今後の展開>

今回、リアルタイムに裸眼で、SEM像の高解像度3D観察が可能になりました。これは、従来のSEMの3D映像静止画像の世界とは大きく異なり、ミクロの世界をリアルに体感できる新時代の顕微鏡として期待できるものです。本成果により、マニピュレーターを用いたSEM視野内での微小解剖(医学生物分野)や電気特性の取得(無機材料分野)などへの応用が期待できることから、今後のSEMの新たな発展も示唆されます。

今回開発した電子線傾斜技術の一部は、株式会社日立ハイテクノロジーズ製SEMのオプション機能として、本年度(平成24年度)に製品発売を予定しています。

<参考図>

図1

図1 リアルタイムステレオ表示と裸眼対応高解像度3Dモニターの組合せ外観

表示されているのは、マウスの腎臓糸球体(大きさは約70マイクロメートル)の画像。
左)通常のモニター:左・右それぞれの傾斜画像と通常SEM画像、アナグリフ画像(赤青メガネで立体的に見える)の4画面が同時表示されている。
右)裸眼対応高解像度3Dモニター:裸眼対応の立体画像が表示されている。
図2

図2 画面表示例とステレオ観察用GUI

図3

図3 金属断面のアナグリフ画像

白黒画像では凹凸部分の見分けが難しいが、赤青メガネを着用して見ると立体的に見える。
図4

図4 裸眼対応高解像度3Dモニター(DuraVision FDF2301-3D)の外観

<用語解説>

注1) 走査電子顕微鏡(SEM)
電子線を細く収束し、試料表面を二次元的に走査して、試料から放出される二次電子や反射電子などの信号から画像を形成する装置。
注2) 視差画像
角度の異なる視点から取得した画像。
注3) Directional Backlight(指向性光源)方式
左右の視差画像を同じ画素から時間差で表示するのと同期して、液晶モニターのLED光源からの光の拡散方向を制御することにより、観察者の左右それぞれの目が、各々一方の視差画像だけを視認できるようにすることで、3D画像を映し出す方式。
注4) 非点収差
レンズのX軸とY軸でフォーカスが異なるために生じる収差。SEMには、一般的に非点収差補正器が搭載されており、補正することが可能。
注5) デュアルインプット方式
左右の視差画像を独立した2つの映像信号として伝送する方式。各々の視差画像において解像度を維持したまま出力することが可能。
注6) サイドバイサイド方式
左右の視差画像を水平方向にそれぞれ1/2にし、1/2にした左右の視差画像を組み合わせ、1枚の画像として出力する方式。原理上、水平解像度が1/2となり、奥行分解能も低下する。
注7) アナグリフ方式
左視差画像を赤、右視差画像を青にし、合成して出力する方式。

<お問い合わせ先>

<開発内容に関すること>

伊東 祐博(イトウ スケヒロ)
株式会社日立ハイテクノロジーズ 科学・医用システム事業統括本部
科学・医用システム設計開発本部 先端解析システム設計部 部長
〒312-8504 茨城県ひたちなか市市毛882番地
Tel:029-354-4138 Fax:029-275-5199
E-mail:

<JSTの事業に関すること>

久保 亮(クボ アキラ)、菅原 理絵(スガワラ マサエ)
科学技術振興機構 産学基礎基盤推進部 先端計測室
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
Tel:03-3512-3529 Fax:03-5214-8496
E-mail:
ホームページ:https://www.jst.go.jp/sentan/

<報道担当>

科学技術振興機構 広報課
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432
E-mail:

株式会社日立ハイテクノロジーズ CSR本部 コーポレート・コミュニケーション部
〒105-8717 東京都港区西新橋一丁目24番14号
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