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平成23年9月14日

国立大学法人東北大学

株式会社日立製作所

独立行政法人科学技術振興機構(JST)

専用LSIの開発で小型・軽量化を実現した
超小型頭部近赤外光計測装置の試作機を開発

―複数人の脳活動を同時に計測、計測結果のリアルタイム表示を実現―

国立大学法人 東北大学(東北大学総長:井上 明久/以下、東北大学)加齢医学研究所の川島 隆太 教授と株式会社 日立製作所(執行役社長:中西 宏明/以下、日立)らは、JST 研究成果展開事業(先端計測分析技術・機器開発プログラム)機器開発タイプの一環として、脳活動に伴う前頭葉部分の血液量の変化を簡単に計測する超小型頭部近赤外光計測装置の試作機の開発に成功しました。東北大学が脳機能イメージングの知見をもとに研究で必要な要素を提示して、それに即して日立製作所が試作機の基本原理とシステム構成の開発を行いました。

本試作機は、頭部に装着するワイヤレスのヘッドセットと計測結果を表示するコンピュータ用アプリケーションソフトウエアの2点で構成されます。ヘッドセットは、脳活動に伴う前頭葉部分の血液量変化の測定に特化して、新規に開発したものです。測定した信号を処理する主要回路を1つのLSIに集約し、信号処理基板の面積を日立の従来製品と比べて約1/10注1)にしてヘッドセットに内蔵しました。これにより、測定した信号を、コンピュータなどを経由せずに、直接ヘッドセット内で高速処理することが可能となりました。ヘッドセットはワイヤレスで、その重量は信号処理基板を含めても約90gと軽量化注2)に成功した上、デザインを改良することによって高い装着性を実現しました。この成果により、学校、家庭、オフィスなど、日常に近い状況で前頭葉部分の血液量の変化が簡単に計測可能となったことから、脳科学をはじめ認知学、心理学、教育学など幅広い分野での活用が期待されます。また、同時に計測した20人の脳の血液変化量データを、1つのコンピュータ上で表示し、データベース化するアプリケーションソフトウエアも併せて開発しました。これにより、測定しながらリアルタイムで計測結果を表示することを実現しました。本成果は、複数の人が共存する中で、脳がどのような相互作用を行っているかを解明する「社会脳科学」など、最先端の研究分野への応用も期待できます。今後、川島教授らは本試作機を研究に用いて、その有用性を検証していきます。

本開発成果は、以下の事業・開発課題によって得られました。

事業名 研究成果展開事業(先端計測分析技術・機器開発プログラム)機器開発タイプ
開発課題名 「超小型近赤外分光測定装置の開発」(開発期間:平成21~23年度(予定))
チームリーダー 川島 隆太(東北大学 加齢医学研究所 教授)
サブリーダー 荻野 武(日立製作所 トータルソリューション事業部)
担当開発総括 澤田 嗣郎(東京大学 名誉教授)

JSTはこのプログラムの機器開発タイプで、最先端の研究ニーズに応えられるような計測分析・機器およびその周辺システムの開発を行うことを目的としています。

<開発の背景と目的>

近年、脳科学だけでなく、認知学や心理学、教育などさまざまな分野で脳内の血液量の変化を計測し、その結果を活用する動きが広まっています。また、それに伴い、被験者の計測環境に制約を与えることなく、より日常に近い状況の中で、脳内の血液量の変化を計測できる装置が求められています。このような背景から、東北大学と日立は、小型かつ簡単に脳内の血液量の変化を計測できる装置を開発し、脳科学などの研究への発展に貢献することを目的に、2009年度より本開発プロジェクトに取り組みました。

<本試作機の主な特長>

(1)主要回路の信号処理部を1つのLSIに集約することで、小型・軽量化を実現

従来は主要な回路の信号処理を行うために、大規模な回路、コンピュータによる分析アルゴリズムを用いていましたが、本試作機では信号処理部を1つのLSI注3)に集約し、ヘッドセットの重量 約90gにしました。また、乾電池(CR123A)連続駆動6時間(常温)を実現しました。

(2)20人の脳を同時に計測、かつ、計測結果をリアルタイムに表示

今回はデータ伝送を最適化したZigbeeプロトコルにより無線化し、これまでコンピュータで処理していた多くの信号処理をヘッドセットに内蔵されているLSIで処理し、コンピュータでの処理プロセスを軽減させることで、20人までの同時計測を可能にしました。また、従来ポスト処理で行ってきた、ベースライン補正や周波数解析によるアーティファクト除去や心拍演算などを、LSIに組み込んだ独自のアルゴリズムで実時間処理することによりリアルタイム計測を実現しています(図1)。

(3)ワイヤレスで装着しやすいヘッドセット

ヘッドセットはワイヤレスで装着することができるため、被験者の行動を制約することなく、より日常に近い状況で計測することができます。また、ヘッドセットを従来の額を包み込む形状から頭部の前後を軽く挟み込む形状とすることで、被験者がヘッドセットを装着するのにかかる所要時間を約10秒程度に抑え、拘束性の低いデザイン設計を行いました(図2)。

<参考図>

図1

図1 リアルタイムに結果を表示する計測画面

図2

図2 ヘッドセット装着

<注釈>

  1. 注1) :2009年11月24日に日立が発表した頭部近赤外分光計測装置の信号処理外形基板寸法200×150(mm)と本試作機の信号処理基板寸法50×50(mm)との比較。
  2. 注2) :2009年11月24日に日立が発表した頭部近赤外分光計測装置の信号処理部、ヘッドセットを合わせた重量約1,300gと、本試作機のヘッドセット(信号処理部を含む。乾電池の重量を除く。)重量約90gとの比較。
  3. 注3):本試作機で使用しているLSIは、これまで日立が培ってきた生体光計測の原理・技術に基づいて、東北大学の依頼により株式会社 日立アドバンストデジタルが試作したものです。

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

川島 隆太
国立大学法人 東北大学 加齢医学研究所 教授
〒980-8575 宮城県仙台市青葉区星陵町4-1
E-mail:

株式会社 日立製作所 トータルソリューション事業部 新事業開発本部 人間指向ビジネスユニット
担当:吉村
〒101-8608 東京都千代田区外神田一丁目18番13号
TEL:03-4564-9668(直通)

<JSTの事業に関すること>

独立行政法人 科学技術振興機構 産学基礎基盤推進部(先端計測分析技術・機器開発担当)
担当:安藤
〒102-0075 東京都千代田区三番町5 三番町ビル
TEL:03-3512-3529(直通)
E-mail:
URL:https://www.jst.go.jp/sentan/