<研究成果のポイント>
○4秒以下でフリーラジカル分子を含む試料の3次元画像化に成功
○体の中の酸化還元状態が関与する疾患研究への応用に期待
本研究は、北海道大学 大学院情報科学研究科の赤羽 英夫 博士研究員(現 大阪大学 大学院基礎工学研究科 助教)、札幌医科大学の藤井 博匡 教授らと共同で行われました。
本研究成果は、米国化学会の専門誌「Analytical Chemistry(アナリティカル・ケミストリー)」に受理され、オンライン版で近日中に公開されます。
事業名 | : | 先端計測分析技術・機器開発事業/要素技術プログラム |
開発課題名 | : | 「高速電子常磁性共鳴イメージング法の開発」 |
チームリーダー | : | 平田 拓(北海道大学 大学院情報科学研究科 教授) |
開発期間 | : | 平成20~23年度(予定) |
<研究成果の概要>
<背景>
<研究手法>
本研究グループは、短時間でフリーラジカル分子の画像化を行うために、試料に加える磁場を短時間で制御するイメージング装置を開発しました。試料を立体的に画像化するためには、多くの方向から見た試料の投影(影絵のような情報)を測定した後、計算により投影データから画像を再び組み立てます(再構成と呼ばれる画像処理です)。画像再構成には、X線CT(コンピューター断層撮影法)でも用いられている手法(フィルター補正逆投影法)を用いました。
画像化の計測時間を短くするためには、短時間でフリーラジカル分子を含んだ試料の投影データを取得し、画像の品質が落ちない程度に投影の数を減らすことが必要です。今回の開発では、1つの投影データを50ミリ秒で取得し、合計で46個の投影データを用いて液体試料の画像化に成功しました。また、全体の撮像時間を3.6秒に短縮しました。ナイトロキシルラジカルと呼ばれるフリーラジカル分子を含む水溶液に、ビタミンC(アスコルビン酸)の水溶液を加え、液体試料の中で還元作用によりフリーラジカル分子の信号が消失していく経過を画像化しました。
<研究成果>
試料の内部において消失していくフリーラジカル分子を3.6秒毎に3次元空間で画像化することに成功しました。水溶液中でフリーラジカル分子がビタミンCにより還元され消失する半減期は、早い所で30秒程度でした。短時間に連続して画像化することにより、フリーラジカル分子が還元反応で消失していく時間経過を可視化できました。
得られた画像データからフリーラジカル分子が消えていく半減期を求めると、還元反応の速度を反映した画像情報を得ることができます。これまでの研究で、炎症がある部位では酸化還元状態が正常組織とは異なることから、フリーラジカル分子の消失速度が変化することが知られています。ナイトロキシルラジカルを標的分子として画像化すると、その消失速度から生体内の酸化還元状態の変化を知ることができます。今回の開発は、酸化ストレスや酸化還元状態に関わる病気や生物医学分野の研究に、画像計測技術の面から貢献するものです。
<今後への期待>
論文で発表した実験は、試料管に入れたフリーラジカル分子を標的分子としましたが、今後はマウスやラットなどの体の中で標的分子として投与されたフリーラジカル分子の分布や消失の様子を、時間経過を追って観測することを目指します。今回の高速イメージング技術の開発により、これまで画像化が難しかった半減期の短いフリーラジカル分子を標的分子として用いることが可能になり、疾患モデル動物の研究において使用できる標的分子の範囲が広がりました。今回開発したフリーラジカル分子の高速イメージング技術が、炎症や脳梗塞などの研究へ応用されることが期待されます。
<掲載論文名および著者名>
“Half-life mapping of nitroxyl radicals with three-dimensional electron paramagnetic resonance imaging at an interval of 3.6 seconds”
赤羽 英夫(北海道大学、現在大阪大学)、桑原 洋子(札幌医科大学)、藤井 博匡(札幌医科大学)、平田 拓(北海道大学)
doi: 10.1021/ac901169g
<お問い合わせ先>
<開発内容に関すること>
平田 拓(ヒラタ ヒロシ)
北海道大学 大学院情報科学研究科 教授
Tel:011-706-6762 Fax:011-706-6762
E-mail:
ホームページ:http://www.bme.ist.hokudai.ac.jp/BPE/index-j.html
藤井 博匡(フジイ ヒロタダ)
札幌医科大学 医療人育成センター 教授
Tel:011-611-2111(内線2831) Fax:011-612-3617
E-mail:
<JSTの事業内容に関すること>
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