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■用語解説

(注1)
ヒドロゲナーゼは、その活性中心にニッケル(Ni)と鉄(Fe)を含む[NiFe]ヒドロゲナーゼと、2つの鉄を含む[FeFe]ヒドロゲナーゼに2種類に分類できます。1995年にFontecilla-Campsらによって、[NiFe]ヒドロゲナーゼの結晶構造が明らかにされました(下図a)。それによると、[NiFe]ヒドロゲナーゼの活性中心の構造は2つのイオウ(S)と、1つの謎のXがニッケルと鉄を架橋したNi(μ-S)2(μ-X)Fe構造です。謎のXは、H2を活性化する前(休止状態)はOH2、OH-又はO2-であり、H2を活性化した後(活性化状態)はH-(ヒドリドイオン)であると考えられています(下図b)。

注1

(注2)
「ヒドリドイオン(= 水素化物イオン = H-)」とは、マイナスの電荷を持つ水素イオンのことです。

(注3)
「水素分子(H2)を、プロトン(H+)とヒドリドイオン(H-)へ変換」とは、下記1式のことで、「水素分子のヘテロリティックな開裂」と言います。「水素分子(H2)を、2プロトン(H+)と2電子(e-)へ変換」とは、下記2式のことです。

注3

(注4)
「水素活性化状態」とは、酵素又はモデル化合物において、水素分子が開裂(本研究では、水素分子がプロトンとヒドリドイオンにヘテロリティックに開裂)する状態のことです(下図参照)。

注4

(注5)
これまでにヒドロゲナーゼの活性中心と同様のNi(μ-S)2Feユニットを持つ化合物を用いてH2を活性化し、Ni-H-Fe化合物を合成した例はありません。なぜなら、そのような化合物は空気中の酸素に不安定であると考えられるからです。本研究では、試行錯誤の結果、鉄の代わりに同族元素であるルテニウムを用い比較的安定なNi-H-Ru化合物の合成に至りました。

(注6)
「中性子構造解析」とは、単結晶に中性子を照射することで得られた散乱中性子から、単結晶を構成する分子の詳細な3次元構造を得る分析法です。原子、分子が規則正しく並ぶことで形成された「単結晶」に中性子を照射すると、隣り合う分子で散乱された中性子同士が干渉することで「ブラッグ反射」と呼ばれる回折模様が多数得られます。このブラッグ反射の強度を測定し、計算機で解析を行うことで単結晶を構成する分子の3次元構造を得ることができます。同様の実験はX線でも行われていますが、X線の散乱強度が原子の持つ電子の数で決まるのに対し、中性子の散乱強度は原子核と中性子との相互作用の強さで決まります。すなわち、X線では電子を多く持つ金属原子がはっきり見えるのに対し、中性子では中性子との相互作用が強い水素原子等をはっきりと見ることができます。このため、中性子回折は水素の位置の決定に重要な役割を果たします。特に今回の研究で構造決定したもののように金属原子のすぐ隣に水素原子が位置するような化合物では、X線では金属原子からの散乱が水素原子に比べて極めて大きいために水素原子の有無が不明瞭になります。これに対し、中性子では水素原子が2個の金属原子を架橋している様子を明確に観察できました。